財団法人東京都高齢者研究・福祉振興財団 東京都老人総合研究所
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プロジェクト研究

短期プロジェクト研究
加齢と腎機能

 (1996-1998年度)

加齢と腎機能

◆目次
◆研究者一覧

短期プロジェクト「加齢と腎機能」の課題
丸山直記

 老化は、成熟期後または生殖期後に加齢とともに不可逆的に進行する多くの分子的、生理的および形態学的な衰退現象である。このような表現は身体中の個々の臓器、特に本プロジェクトの対象である腎臓についてもそのままあてはまる。剖検業務に携わるものはすべからく経験するが、高齢者においては腎硬化症は程度の差はあれ、かならず観察することができる病態である。
 高齢社会の到来は、このような腎硬化症患者の絶対的な増加をもたらす。そして病変の進行に伴い、腎機能が低下し透析導入へと移行して行く。その結果、全国の透析患者数は17万人を越し、一方、年間の新規透析導入は2万8千人となり、その内の45%が65歳以上の高齢者という統計が報告されている。欧米においては、65歳以上の腎不全患者の透析導入に規制を設けたり、痴呆症のある高齢患者は透析導入しないというコンセンサスの形成がある。我が国ではこのような制限は存在しない。その一方、高齢者の透析患者が増加しており、日本の医療経済学において今後は深刻な課題となると思われる。
 腎臓は他の臓器に比較しても多彩な機能を持っている臓器である。加齢に伴い変化する主な機能としては以下の4項目があげられる。1)血液濾過による尿産生、2)レニンアンギオテンシン系を介した血圧調節、3)尿細管による再吸収・電解質バランスの調整、4)間質線維芽細胞から分泌されるエリスロポイエチンによる赤血球産生増加である。腎臓を構成する機能単位はネフロンと呼ばれ、大別して糸球体と尿細管に分けることができる。先に挙げた4つの機能は始めの2つが糸球体、後の2つが尿細管あるいは間質が機能を担っている。いずれの機能も加齢に伴い低下することが知られている。
 ヒトにおける糸球体硬化症はその成因としては2つの大きな原因がある。1つは動脈硬化症、もう1つは炎症である。この2つの原因はそれぞれに単独に存在するのではなく、個体の中に程度の差はあれ共存している。本プロジェクトでは特に炎症に起因する糸球体硬化症を対象とした。それは我々が日常的に使用する実験動物においては顕著な動脈硬化病変が顕著ではないために、その影響を解析するのは難しいためである。しかし動脈硬化病変が存在しないことにより、炎症の影響を解析するには都合が良い面も存在する。個体の一生の間には無数の炎症惹起物質や特殊な感染症がなくても数多くの炎症を経験する。このような炎症の堆積が糸球体に表現される(Yumura, Experimental Gerontology 24:237,1989,Aging:Immunology and Infectious Disease 3:117-126,1992)。ただ、動物を用いた加齢腎症の研究においては栄養学的な要因を常に考慮しなければならない。飼育動物は通常飼料は自由摂取であるため、栄養過多の状態である。これまでの報告では、カロリー制限はあきらかに加齢に伴う腎症を改善することが知られているからである。
 これまでの加齢に伴う糸球体硬化の解析としては、Kaplan(Am.J.Path.80:227-234,1975)等の報告がある。彼らは腎疾患や高血圧が無い集団での解析から、40歳以下での糸球体の不可逆性変化は10%であり、次第にその頻度は上昇し、80歳頃には大体25%以上が非可逆的な硬化病変を示すことを報告している。もちろん荒廃した硬化糸球体は濾過機能を示さないが、その前駆的な病変は殆どの糸球体に及びmicroalbuminuriaなどの症状を示す(Yumura1989)。このようなmicroalbuminuriaの出現は、糖尿病などにおいても腎症の前駆症状として重要である。
 糸球体を構成する主要な細胞成分は糸球体上皮細胞、糸球体内皮細胞およびメサンギウム細胞である。従来の腎糸球体障害の研究は血管内皮細胞とメサンギウム細胞の病変が量的に多かった。本プロジェクトでは糸球体上皮細胞障害に関する研究を盛り込み、興味ある研究結果が得られた。特に糸球体上皮細胞は生体内では、障害を受けた後に増殖が殆ど見られないという性質を持っている。本プロジェクトにおいても炎症性刺激により糸球体上皮細胞が剥離してゆくユニークな現象を発見し、臨床例の解析とも合致することが明らかとなった。また、メサンギウムの由来について骨髄移植結果から、一部が骨髄に由来することが明らかとなった。この結果は将来のいわゆる再生医学への発展が期待できる。肝臓などとは異なり、硬化糸球体の再生などとはプロジェクト開始時には全く夢想もしていなかった事である。この領域の研究はまだ多くの未解決な部分があることから、今後も我々の課題となっている。
 尿細管に関しては、本プロジェクト期間中に構成員により発見された3つの物質について遺伝子破壊マウス系が樹立された。その1つは内田信一によるクロライドチャンネルCLC-K1である。内田らの解析により、高齢者の脱水機序の一端が明らかとなった。2つめは藤田等によるSMP30である。この物質は加齢に伴い減少することが端緒で発見されたカルシウム結合蛋白質である。尿細管に発現され細胞傷害に対して庇護的に働くことが明らかとなっている。高齢者の腎臓において動脈硬化や種々の傷害による低酸素に由来する尿細管壊死に対してこの物質が作用する機序の解析が今後の課題と考えている。3つめは下澤等により解析された血管作動性物質アドレノメデュリンである。その細胞増殖抑制作用を腎間質細胞に適用したことはアドレノメデュリンの腎臓病学領域への応用の開始となった。下澤等は、これを機会にアドレノメデュリンをモニターとした腎透析患者の循環病態の解析を開始することができた。また、期間中にこの物質のノックアウトマウスの樹立に成功した。このマウスはホモ接合体では胎児死亡を呈するので、現在その原因の解析を行っている。またヘテロ接合体でも興味ある病態を示すことから腎臓病あるいは老年医学への貢献が期待できる。

 本プロジェクトを遂行する機会を与えてくださった木幡陽所長を始めとする東京都老人総合研究所の皆様に感謝いたします。
 平成12年3月





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2002/11/26

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