ノルアドレナリン、アドレナリン、交感神経支配効果器、中枢神経
AdrR(アドレナリン受容体)はカテコールアミン類(ノルアドレナリン、アドレナリン)に対する受容体である.1948年にRaymond P. Ahlquist(米国)によりα受容体とβ受容体に分類された.末梢組織では血管、心臓、脂肪細胞、交感神経終末などに、中枢神経では脊髄、脳幹、視床、大脳皮質などに広く存在する。
α受容体とβ受容体は、いずれも7回膜貫通型のG蛋白質共役型受容体である。アドレナリン受容体には、α1(α1A、α1B、α1D)、α2(α2A、α2B、α2C)、β(β1、β2、β3)の合計9分子種(サブタイプ)が存在する。サブタイプによりアドレナリンとノルアドレナリンに対する親和性が異なる。α1Aの遺伝子座は第8染色体で466個のアミノ酸からなる。β1の遺伝子座は第10染色体で477個のアミノ酸からなる。
α1受容体は血管平滑筋収縮による血圧上昇作用をもつ。α2受容体は神経終末からのノルアドレナリン遊離抑制作用、中枢性血圧低下作用、疼痛受容抑制作用などをもつ。β1受容体は心機能亢進作用、β2受容体は平滑筋弛緩作用(血管弛緩、気管支拡張、胃腸管弛緩など)、β3受容体は脂肪分解作用をもつ。肝臓でのグリコーゲン分解作用はα1とβ2の両受容体が関与するとされている。
一般に老年者では運動時など負荷時の循環調節機能が低下する。例えば、運動時の最大心拍数は年齢とともに低下する。また老年者では、起立時に一過性の低血圧を起こしやすい。これらの循環調節機能の低下の一因として、心臓や血管のαおよびβ受容体の反応性低下が関与すると考えらている(Hotta
and Uchida, 2010)。
β受容体作動薬注入に対する心拍数や心拍出量の増加反応や血管拡張反応はいずれも、老年者や老齢動物で低下する(Lakatta,
1993; Suzuki et al., 2004, 図C)。運動時の最大心拍数は年齢とともに低下するが、β受容体遮断薬投与後にはその差がなくなる(Schulman
et al.、
1992)。老齢ラットでは、侵害刺激による心臓交感神経活動増加反応は成熟ラットと同様に維持されるにもかかわらず、心拍数増加反応が低下する(Suzuki
et al., 2004, 図A,B)。おそらく心臓のβ受容体機能の低下が、加齢による交感神経興奮時の最大心拍数低下の原因と考えられる。加齢によるβ受容体機能の低下には、受容体の親和性の低下、G蛋白受容体複合体の障害やアデニレートシクラーゼの反応性低下によるcAMP産生の減少など、受容体や細胞内シグナル伝達系における様々な変化が関与する(Novak and Lipsitz,
2004)。
図 心拍数と心臓交感神経活動の反応性の加齢変化(ラット).AとB:後肢足蹠への機械的侵害刺激に対する心拍数(A)と心臓交感神経活動(B)の応答.C:β刺激薬(プロプラノロール)静脈内投与に対する最大心拍数.(Suzuki
et al., 2004より改変).
老年者では、α受容体作動薬動脈内投与による前腕血流減少反応やα受容体遮断薬による前腕血流増加反応が低下する(Dinenno et al., 2002)。老齢ラットで成熟ラットと同程度の昇圧反応を起こすためには、より多い量のα受容体作動薬が必要である(Kurosawa et al., 1987)。血管にはα1の3種類のサブタイプ全てが存在し(Rudner et al., 1999)、いずれのサブタイプも血圧調節との関連が報告されている。ラットにおいて腎臓のα1A受容体の発現は加齢に伴い減少するが、α1Bおよびα1D受容体は変化しないことから(Li et al., 2010)、加齢に伴うα受容体反応性低下にはα1Aサブタイプの発現低下が関与する可能性が指摘されている。しかし卵巣血管では、卵巣交感神経刺激時のα1受容体を介する血管収縮反応(血流低下反応)が老齢ラットにおいても成熟ラット同程度に維持されている(Uchida et al., 2007; Hanada et al., 2011)。α受容体反応性の加齢変化は、臓器毎に異なる可能性がある。
ADRA1A
(http://omim.org/entry/104221),
ADRA1B (http://omim.org/entry/104220),
ADRA1C
(http://omim.org/entry/104219),
ADRA2A (http://omim.org/entry/104210),
ADRA2B
(http://omim.org/entry/104260),
ADRA2C (http://omim.org/entry/104250),
ADRB1 (http://omim.org/entry/109630),
ADRB2
(http://omim.org/entry/109690),
ADRB3
(http://omim.org/entry/109691)
1. Kurosawa M, Sato A, Sato Y, Suzuki H. Undiminished reflex responses of
adrenal sympathetic nerve activity to stimulation of baroreceptors and cutaneous
mechanoreceptors in aged rats. Neurosci Lett. 77: 193-198, 1987 (PMID:
3601230)
2. Suzuki A., Uchida S, Hotta H. The effects of age on
somatocardiac reflexes in anesthetized rats. Japanese Journal of Physiology 54:
137-141, 2004 (PMID:
15182420)
3. Uchida S, Hotta H, Hanada T, Okuno Y, Aikawa Y. Effects of
thermal stimulation, applied to the hindpaw via a hot water bath, upon ovarian
blood flow in anesthetized nonpregnant rats. J. Physiol. Sci. 57: 227-233, 2007
(PMID: 17666160)
4.
Hotta H, Uchida S. Aging of the autonomic nervous system and possible
improvements in autonomic activity using somatic afferent stimulation. Geriatr
Gerontol Int. Suppl 1:S127-136, 2010 (PMID:
20590828)
5. Hanada T, Uchida S, Hotta H, Aikawa Y. Number, size,
conduction, and vasoconstrictor ability of unmyelinated fibers of the ovarian
nerve in adult and aged rats. Auton. Neurosci. 164: 6-12, 2011 (PMID:
21636330)
内田さえ、堀田晴美
Update 20120224