BACH1; BTB AND CNC HOMOLOGY 1
[別名]
BASIC LEUCINE ZIPPER TRANSCRIPTION FACTOR 1

キーワード

 細胞老化、がん抑制遺伝子、p53、小Maf群遺伝子

歴史とあらまし

 1996年、OyakeらによりMafファミリー(がん遺伝子産物)と結合する因子としてマウスBach1が同定され、1998年にOhiraらやBlouinらによりヒトcDNAが単離された(Ref. 1-3)。赤血球系転写因子であるNF-E2やその関連因子であるNrf1,-2, -3などと同様にMafとのヘテロ二量体を形成して、Maf recognition element(MERE)と結合する。Bach1とMafのヘテロ二量体はMAREと結合すると、標的遺伝子の転写を抑制するといったように、MEREを介した転写制御は活性化と抑制のバランスを保っている。また、哺乳動物において、ヘム結合性を有する最初の転写因子として発見された遺伝子である(Ref. 4)。

分子構造

 736個のアミノ酸からなり、ヒトでは21番染色体に存在する。マウスの他、ウシやトリなどにおいても相同遺伝子が報告されている。塩基性ロイシンジッパー構造を有し、小Maf(MafK、MafF、MafG)とヘテロ二量体を形成し、MEREを認識してDNAと結合する。一方、BTBを解したホモ二量体形成によりヘテロな四量体を形成し、DNAループを形成する。Cys-ProからなるCPモチーフを4箇所有し、ヘムと結合する。また、精巣から得られた623個のアミノ酸からなるBach1の異形であるBach1tは、C末端のロイシンジッパードメインを欠き、Bach1が主に細胞質に局在するのに対し、Bach1tは核内に存在する。

機能

 転写抑制因子であるBach1は、赤血球系ではグロビン遺伝子の発現抑制に関わり、それ以外の細胞では、HO-1などの酸化ストレス応答に関与する遺伝子の転写を抑制する。また、Bach1はp53(がん抑制遺伝子)とその標的遺伝子が形成するクロマチン上で結合し、p53の機能を阻害する。転写因子であるP53は、細胞老化に関わる遺伝子発現を増加し、細胞老化を促進することが知られている。Bach1ノックアウトマウスの繊維芽細胞を用いた実験から、Bach1はP53を介した細胞老化応答を規定していると考えられる(Ref.5)。さらに、細胞増殖の停止を促すことからがん抑制因子としての働きを持つ。このことから、Bach1がp53と結合し、p53による転写活性を阻害することで、細胞老化を抑制する分子とされている。

老化・老年病における意義

 細胞の酸化ストレスやDNA損傷が蓄積すると細胞老化が引き起こる。このようなストレスの蓄積により、個体老化が生じると考えられている。P53は細胞増殖の停止や細胞死を促すため、Bach1の結合によるp53の転写活性の抑制は細胞老化に関わる遺伝子の発現をコントロールし、細胞老化そのものを抑制すると考えられる。しかし、p53ががんのような異常細胞の増殖も停止するため、Bach1は老化を抑制する一方で、がん化を促進してしまう可能性もある。

Database

BTB AND CNC HOMOLOGY 1; BACH1

参考文献

1) Oyake, T., Itoh, K., Motohashi, H., Hayashi, N., Hoshino, H., Nishizawa, M., Yamamoto, M., Igarashi, K.Bach proteins belong to a novel family of BTB-basic leucine zipper transcription factors that interact with MafK and regulate transcription through the NF-E2 site.Molec. Cell. Biol., 16: 6083-6095, 1996. (PMID: 8887638)
2) Ohira, M., Seki, N., Nagase, T., Ishikawa, K., Nomura, N., Ohara, O.Characterization of a human homolog (BACH1) of the mouse Bach1 gene encoding a BTB-basic leucine zipper transcription factor and its mapping to chromosome 21q22.1.Genomics 47: 300-306, 1998. (PMID: 9479503)
3) Blouin, J.-L., Sail, G. D., Guipponi, M., Rossier, C., Pappasavas, M.-P., Antonarakis, S. E. Isolation of the human BACH1 transcription regulator gene, which maps to chromosome 21q22.1.Hum. Genet. 102: 282-288, 1998. (PMID: 9544839)
4) Ogawa K, Sun J, Taketani S, Nakajima O, Nishitani C, Sassa S, Hayashi N, Yamamoto M, Shibahara S, Fujita H, Igarashi K.Heme mediates derepression of Maf recognition element through direct binding to transcription repressor Bach1.EMBO J., 20(11):2835-43, 2001.(PMID:11387216)
5) Dohi Y, Ikura T, Hoshikawa Y, Katoh Y, Ota K, Nakanome A, Muto A, Omura S, Ohta T, Ito A, Yoshida M, Noda T, Igarashi K. Bach1 inhibits oxidative stress-induced cellular senescence by impeding p53 function on chromatin. Nat Struct Mol Biol.,15(12):1246-54, 2008.(PMID:19011633)

作成者

板倉 陽子 20121209

Update 20121225

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