免疫複合体、補体、Wnt/β-cateninシグナル、老化促進因子
血清中に細菌を殺すことができる成分があり、そこには「熱安定性」と「易熱性」を持った2つで構成されることが19世紀後半に示された。後者は正常血清中に保持され非特異的な抗微生物活性を持つことがわかり、後に「補体」と呼ばれるようになる。血清中にあり、免疫系の細胞を補助する意味で命名された。補体の成分はC1〜C9で、C1にはさらにC1q、C1r、C1sの3つの、その他はC5a、C5bといったように2つのそれぞれサブタイプを持つ。
C1qはA-chain, B-chain, c-chain各6個の合計18個のポリペプチドから構成されている。各鎖は、N末にコラーゲン様領域を有し、C末は球状構造を持っている。それぞれのタンパク質をコードする遺伝子は、染色体1番上でA-C-Bの順に配置されている。
補体は免疫反応を仲介する血中タンパク質の一群で、体内に侵入してきた異物に抗体が結合すると、その抗体により補体が活性化して生体防御に働く。補体成分はC1からC9まであり、これらのタンパク質群が連鎖的に活性化して免疫反応を起こす。C1は、体液性免疫の抗体抗原複合体が最初に結合し、活性化して連鎖反応の始まりに関与する。免疫系の中で古典経路と呼ばれる反応は、C1複合体(C1q, C1r,C1s)の活性化がトリガーであり、抗原と複合体を形成したIgMやIgGにC1qが結合したときに起こる。またC1qが病原体表面に直接結合した場合にも活性化する。この結合によりC1複合体が活性化し、他の補体活性化への一連の反応が起こり、免疫反応が順次進んでいく。
スタンフォード大学のグループが、マウスでの実験で血液中に老化に関与する分子の存在を示し、さらにその分子がWnt/β-cateninシグナルの活性化を引き起こしていることを報告した。そして2012年、大阪大学の研究グループによって、その分子の本体がC1qであることが示された。C1qは高齢マウスや心不全マウスの血中で増加しており、C1r,
C1sと複合体を形成しWnt受容体であるFrizzledに結合する。そのことで、C1r,
C1sが順次活性化し、Wnt共受容体のLRP5/6を切断し、β-cateninを安定化させることでWntシグナルを活性化することを報告している。老化に伴う疾患は多く知られているが、その分子機序は不明であり、「免疫反応」に重要な役割を担う補体分子が関与していることが明らかになり、老年病疾患発症の機序解明やその予防法の開発につながっていくことが期待されている。
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豊田雅士 20121202
Update 20121204