CALCB; CALCITONIN-RELATED POLYPEPTIDE, BETA
[別名]
CALCITONIN GENE-RELATED PEPTIDE-2; CGRP2; CALC2

CALCA; CALCITONIN/CALCITONIN-RELATED POLYPEPTIDE, ALPHA
[別名]
CT; CALCITONIN; CALC1

キーワード

 カルシトニン、血管拡張、体性求心性神経、侵害刺激

歴史とあらまし

 1984年にMorrisonらがヒトの髄様甲状腺癌を用い、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)の単離に初めて成功した。それまで、CGRPの存在自体は想定されていたものの、証明には至っていなかった。
CGRPは、血中カルシウム濃度の調節に関連する甲状腺ホルモン・カルシトニンと同様にカルシトニン遺伝子産物である。CGRPは、中枢・末梢神経系に幅広く分布するが、αCGRPとβCGRPの2種類存在し、産生量は体部位によって異なる。知覚ニューロンでは、αCGRPはβCGRPの約6倍存在し、消化管においては、βCGRPのみ認められる。下位脳幹では、αおよびβCGRP含有ニューロンの分布は類似している。

分子構造

 CGRPは、37個のアミノ酸よりなるポリペプチドである。αCGRPとβCGRPは異なる遺伝子によってコードされるが、そのアミノ酸組成は類似している。ヒトでは、アミノ酸残基が3つ異なり、ラットではアミノ酸残基が1つ異なるのみである。
αCGRPの遺伝子は、11番染色体(p13-p15)に存在し、βCGRPの遺伝子は、11番染色体(p12-qter)に存在している(Maclntyre et al. 1987)。

機能

 CGRPの生理作用として、摂食抑制作用、胃酸・胃液分泌抑制作用、血管拡張作用などが報告されている。
CGRPは、知覚ニューロンのうち、無髄および直径の細い有髄神経線維の脊髄後根神経節で産生され、中枢および末梢の両側性に作用する。体組織への侵害刺激により、末梢神経の軸索末端からCGRPがP物質と共に遊離される。その結果、末梢血管を著しく拡張させ、血管透過性を亢進させる。CGRPは、皮膚をはじめ、筋や神経組織の血流調節に関与する。脊髄後根を逆行性に電気刺激することにより誘発される神経(Sato et al. 1994)および筋(Sato et al. 2000)の血流増加反応は、CGRP受容体拮抗薬により遮断される。さらに、軸索反射様機序を介し、CGRPが神経血流を増加させる(Hotta et al. 1996)ことも示されている。一方、脊髄後根神経節より中枢側に運搬されるCGRPは、侵害受容伝達に後角レベルで関与していると考えられているが、その役割は良く分かっていない。
  消化管平滑筋層内に遊離されるCGRPは、消化管運動の調節に関与していると考えられている。

老化・老年病における意義

  脊髄後根を逆行性に電気刺激することにより誘発される皮膚血流増加反応は、老齢ラットで潜時が著しく延長する(Khalil et al., 1994)。老齢ラットでは、火傷の回復により長い期間を要するが、CGRPを皮下投与すると、創傷治癒が早まる(Khalil and Helme, 1996)。老齢マウスの培養感覚ニューロン中のCGRP-IRニューロンの割合は少ない(Jiang and Smith 1995)ことが示されているため、加齢によりCGRPの産生・分泌が低下し、CGRPを介した血流調節機能が低下することを意味する。このことは、加齢により創傷治癒が遅くなることと関連するかもしれない。
さらに、皮膚への圧刺激中に生じる皮膚血管拡張反応に、CGRPが関与することが報告されている(Fromy et al. 2000)。このようなメカニズムは、外力が身体へ持続的に加わるために、皮膚組織が虚血になることを防いでいると考えられる。CGRPを介した血管拡張反応の低下は、皮膚組織の血行障害ために生じる不可逆的な障害である辱瘡が、高齢者で発生しやすい一因であると考えられる。

Database

CALCACALCB

参考文献

1. Fromy B, Merzeau S, Abraham P, Saumet JL. Mechanisms of the cutaneous vasodilator response to local external pressure application in rats: involvement of CGRP, neurokinins, prostaglandins and NO. Br J Pharmacol. 2000;131(6):1161-71. (PMID: 1108212)
2. Hotta H, Sato A, Sato Y, Uchida S. Stimulation of saphenous afferent nerve produces vasodilatation of the vasa nervorum via an axon reflex-like mechanism in the sciatic nerve of anesthetized rats. Neurosci Res. 1996;24(3):305-8. (PMID: 8815449)
3. Jiang ZG, Smith RA. Regulation by nerve growth factor of neuropeptide phenotypes in primary cultured sensory neurons prepared from aged as well as adult mice. Brain Res Dev Brain Res. 1995;90(1-2):190-3. (PMID: 8719344)
4. Khalil Z, Helme R. Sensory peptides as neuromodulators of wound healing in aged rats. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 1996;51(5):B354-61. (PMID: 8808984)
5. Khalil Z, Merhi M, Livett BG. Differential involvement of conotoxin-sensitive mechanisms in neurogenic vasodilatation responses: effects of age. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2001;56(8):B356-63. (PMID: 11487594)
6. Khalil Z, Ralevic V, Bassirat M, Dusting GJ, Helme RD. Effects of ageing on sensory nerve function in rat skin. Brain Res. 1994;641(2):265-72. (PMID: 7516812.)
7. MacIntyre I, Alevizaki M, Bevis PJ, Zaidi M. Calcitonin and the peptides from the calcitonin gene. Clin Orthop Relat Res. 1987;(217):45-55.(PMID: 3549095)
8. Sato A, Sato Y, Shimura M, Uchida S. Calcitonin gene-related peptide produces skeletal muscle vasodilation following antidromic stimulation of unmyelinated afferents in the dorsal root in rats. Neurosci Lett. 2000;283(2):137-40. (PMID: 10739894)
9. Sato A, Sato Y, Uchida S. Blood flow in the sciatic nerve is regulated by vasoconstrictive and vasodilative nerve fibers originating from the ventral and dorsal roots of the spinal nerves. Neurosci Res. 1994;21(2):125-33. (PMID: 7724063)

作成者

渡辺信博、内田さえ、堀田晴美 20111130

Update 20120628

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