長期記憶、認知症、Rubinstein-Taybi症候群、骨髄白血病
プロテインキナーゼA (protein kinase A, PKA) によってリン酸化されるCREB (cAMP response element binding protein) は、C末端領域で二量体を形成することにより、cAMP response element (CRE)に結合する。CREBBPは、CREBのN末端側領域に位置するセリン残基がPKAによって活性化された際、リン酸化CREBに結合する転写共役因子 (coactivator) として同定された (Ref 1)。現在では、CREBBPは核内ホルモン受容体や転写活性化因子に共通する転写共役因子として機能することが明らかになってきた (Ref 2)。最近では、CREBBPと類似した構造及び機能を持つE1A binding protein p300 (EP300あるいはp300) とまとめてCREBBP/p300と呼ばれることも多い。
ヒトCREBBP遺伝子は16番染色体上に位置しており、他のタンパク質と相互作用する5つのドメイン(Nuclear receptor interaction domain, RID; CREB and MYB interaction domain, KIX; cysteine/histidine region, TAZ1/CH1 and TAZ2/CH3; interferon response binding domain, iBiD) に加え、ヒストンアセチルトランスフェラーゼドメイン、アセチル化リジンと結合するブロモドメインを有している。CREBBPはKIXドメインを通じてリン酸化CREBと結合する。また、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ(HAT)活性を通じてヒストンのアセチル化を行う。
CREBBPはほぼ全ての細胞に存在しており、DNAに直接結合することなくタンパク質同士の相互作用を通じて転写を活性化する転写共役因子としての機能を果たしている。CREBBPは、KIXドメインを通じてリン酸化CREBと結合して活性化される(Ref
3)。活性化されたCREBBPは転写複合体の基本因子であるTFIIBを介してmRNAの合成酵素であるRANポリメラーゼに作用し、転写を促進する。CREBBPはリン酸化CREBだけではなく、核内ホルモン受容体やMybやFos、Jun、STST
1αなど多くの転写因子に共通する転写共役因子として機能することが明らかになってきた(Ref 4)。
また、CREBBPはHAT活性を有しており、ヒストンのアセチル化とそれに伴うクロマチン構造の制御を担うことにより、転写を活性化させる機能を有している(Ref
5)。
認知機能を支える基盤である記憶機能は、老化やアルツハイマー病を始めとする神経変性疾患に罹患することで低下する。良好な生活の質を保つため、これらの機能低下を最小限に押さえる、あるいは改善する手法を見いだすことは社会的に有意義である。CREBBPのHAT活性が低下することによって長期記憶の形成が阻害されると報告されていることから(Ref 6)、CREBBPは老化や疾患に伴う記憶、認知機能改善の重要なターゲットとして注目されている。また、CREBBPは形態形成異常や発達遅滞を特徴とする遺伝性奇形症候群の一つであるRubinstein-Taybi症候群の原因遺伝子であることが判明している (Ref 7)。さらに、CREBBPと類似構造・機能を有し、22番染色体に位置するp300では、8番染色体との転移と骨髄白血病の関係性が示唆されている (Ref 8)。
1) Chrivia JC, Kwok RP, Lamb N, Hagiwara M, Montminy MR, Goodman RH.
Phosphorylated CREB binds specifically to the nuclear protein CBP. Nature.
365. 855-9. 1993. PMID: 8413673
2) Janknecht R, Hunter T. Transcription.
A growing coactivator network. Nature. 383. 22-3. 1996.
PMID: 8779707
3)
Parker D, Ferreri K, Nakajima T, LaMorte VJ, Evans R, Koerber SC, Hoeger C,
Montminy MR. Phosphorylation of CREB at Ser-133 induces complex formation
with CREB-binding protein via a direct mechanism. Mol Cell Biol. 16.
694-703. 1996. PMID: 8552098
4) Giles RH, Peters DJ, Breuning MH.
Conjunction dysfunction: CBP/p300 in human disease. Trends Genet. 14.
178-83. 1998. PMID: 9613201
5) Ogryzko VV, Schiltz RL, Russanova V,
Howard BH, Nakatani Y. The transcriptional coactivators p300 and CBP are
histone acetyltransferases. Cell.87. 953-9. 1996.
PMID: 8945521
6) Korzus
E, Rosenfeld MG, Mayford M. CBP histone acetyltransferase activity is a
critical component of memory consolidation. Neuron. 42. 961-72. 2004.
PMID:
15207240
7) Petrij F, Giles RH, Dauwerse HG, Saris JJ, Hennekam RC,
Masuno M, Tommerup N, van Ommen GJ, Goodman RH, Peters DJ, et al.
Rubinstein-Taybi syndrome caused by mutations in the transcriptional
co-activator CBP. Nature. 376. 348-51. 1995.
PMID: 7630403
8) Goodman RH,
Smolik S. CBP/p300 in cell growth, transformation, and development. Genes
Dev. 14. 1553-77. 2000.
PMID: 10887150
柳井修一 20121203
Update 20130117