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FTL; FERRITIN LIGHT CHAIN
キーワード
鉄、活性酸素、神経フェリチン症､白内障
歴史とあらまし
Brownらにより、ラットにおいて2種のフェリチンが異なるmRNAにより規定されていることが発見(Ref.1)。その後、ほ乳類において、フェリチン重鎖、軽鎖の2種類が存在し、異なるmRNAにより支配されること、また、フェリチンはその重鎖と軽鎖が一定の割合で結合した構造からなることが明らかとなった (Ref.2)。
分子構造
ヒトにおけるフェリチン重鎖の遺伝子座は染色体11q12.3、軽鎖は染色体19q13.33にある。ほ乳類のフェリチンは約480kDaの球体構造で、24個のフェリチンポリペプチドが集まり構成される。軽鎖と重鎖の割合は、臓器により異なり、筋肉では重鎖20と軽鎖4，血清では軽鎖のみから構成されている（植物では重鎖のみ）(Ref.2, 3, 4)。
機能
フェリチンは鉄を貯蔵する蛋白で、鉄代謝に中心的な役割を果たしている。一般に鉄を貯蔵していない状態をアポフェリチンと呼び、それが遊離二価鉄と結合してフェリチンとなる。遊離二価鉄は、活性酸素の生成に関与し、組織障害性がある。フェリチンは捕捉された二価鉄を三価鉄の状態で貯蔵し、最大で1分子あたり、約4500の鉄原子を貯蔵する。フェリチン重鎖は二価鉄から三価鉄への酸化作用が強く、軽鎖は鉄をフェリチン内部に取り込む作用があるとされている （Ref 2）。鉄が多くの神経疾患とも関連することがわかってきたことから、フェリチンも注目されている。
老化・老年病における意義
FTL遺伝子異常に伴う疾患として、遺伝性高フェリチン血症白内障症候群と神経フェリチン症が知られている。
遺伝性高フェリチン血症白内障症候群は、常染色体優性遺伝性疾患で、若年から両側の白内障と血清フェリチン値の高値を来す疾患である(Ref.
6)。報告の多くはフェリチン軽鎖遺伝子のiron responsive element
(IRE)に遺伝子変異を有する。一般にそれ以外の症候を呈さないことが多いが、そのため適切に診断がなされなかったり、他の疾患として診断されていることもある。遺伝子変異部位により、白内障発症年齢が、異なることが報告されており、その発症メカニズムには様々な因子が関与する可能性がある。
神経フェリチン症は、FTL遺伝子変異により生じる多彩な神経疾患を呈する常染色体優性遺伝性疾患である(Ref.3)。臨床的には、振戦、小脳失調、錐体路徴候、錐体外路徴候、認知障害などを長期にわたって認める。病理学的には、大脳、小脳の神経細胞、グリア細胞核内、あるいは細胞質内や、皮膚や腎臓など全身臓器にも、変異したフェリチン軽鎖と正常の軽鎖・重鎖からなる封入体を認める。神経フェリチン症が神経細胞死を来す原因として，活性酸素との関連において、変異フェリチンによるgain
of toxic functionとloss of
functionが想定されていること、鉄代謝が多くの加齢性神経疾患に関連することから(Ref.7)、加齢と活性酸素との関連を解決する糸口になりうる疾患であると考えられ、今後の展開が期待される。
Database
参考文献
1. Brown AJP, Leibold EA, Munro H N. Isolation of cDNA clones for the light
subunit of rat liver ferritin: evidence that the light subunit is encoded by
a multigene family. Proc Natl Acad Sci U S A. 1983 Mar;80(5):1265-9.
PMID: 6187009
2.
Harrison PM, Arosio P.The ferritins: molecular properties, iron storage
function and cellular regulation.Biochim Biophys Acta. 1996 Jul
31;1275(3):161-203.
PMID: 8695634
3. Vidal R, Ghetti B, Takao M, Brefel-Courbon C,
Uro-Coste E, Glazier BS, Siani V, Benson MD, Calvas P, Miravalle L, Rascol
O, Delisle MB. Intracellular ferritin accumulation in neural and extraneural
tissue characterizes a neurodegenerative disease associated with a mutation
in the ferritin light polypeptide gene. J Neuropathol Exp Neurol. 2004
Apr;63(4):363-80.
PMID: 15099026
4. Muhoberac BB, Baraibar MA, Vidal R. Iron
loading-induced aggregation and reduction of iron incorporation in
heteropolymeric ferritin containing a mutant light chain that causes
neurodegeneration. Biochim Biophys Acta. 2011 Apr;1812(4):544-8.
PMID: 21029774
5. Baraibar MA, Barbeito AG, Muhoberac BB, Vidal R. A mutant light-chain
ferritin that causes neurodegeneration has enhanced propensity toward
oxidative damage. Free Radic Biol Med. 2012 May 1;52(9):1692-7.
PMID: 22348978
6. Nonnenmacher L, Langer T, Blessing H, Gabriel H, Buchwald HJ, Meneksedag
C, Kohne E, Gencik M, Debatin KM, Cario H.Hereditary hyperferritinemia
cataract syndrome: clinical, genetic, and laboratory findings in 5
families.Klin Padiatr. 2011 Nov;223(6):346-51.
PMID: 22020773
7. Zecca L, Youdim MB, Riederer P, Connor JR, Crichton RR.Iron, brain ageing
and neurodegenerative disorders. Nat Rev Neurosci. 2004 Nov;5(11):863-73.
PMID: 15496864
作成者
高尾 昌樹 20120813
Update 20120821