LTP、海馬、陳述記憶、coincident detector、Ca2+、グルタミン酸
グルタミン酸受容体は代謝型とイオン型の2種類に分かれる。NMDA-Rはイオン型に属し、受容体がイオンチャネルを構成する(1)。海馬LTPは記憶の細胞モデルとして考えられている(2)。NMDA-Rは脳内の様々な部位に分布するが、陳述記憶を担う海馬において、錐体細胞に存在するNMDA-RはLTPとの関連で重要である(2)。錐体細胞にシナプスを作る神経終末からのグルタミン酸の放出と錐体細胞の脱分極が同時に起こる事で、NMDA-Rのイオンチャネルとしての機能が発揮されることから、NMDA-Rはこれら2つの現象を感知して信号を伝えるcoincident detectorであると考えられている。
NMDA-Rは主にGRIN1サブユニット(NMDAR1,NR1,subunit zeta-1)とGRIN2サブユニット(NMDAR2,NR2A,subunit
epsilon)が2分子ずつ結合した4量体を構成する(1)。NMDA-Rには必ずGRIN1サブユニットが含まれているが、GRIN1には様々なアイソフォームが報告されている。GRIN2はGRIN2A-Dの4つの遺伝子にコードされている。
また、GRIN1とGRIN3(NMDAR3,NR3)サブユニットで構成されたNMDA-Rの報告もあるGRIN3は2つの遺伝子にコードされている。GRIN1-GRIN3で構成されたNMDA-RはGRIN1-GRIN2で構成されたものとは大きく異なる性質を有している(4)。
GRIN1とGRIN2から構成されるNMDA-Rは、脱分極刺激によりMg2+がチャネルからはずれる事で、初めてグルタミン酸の信号が伝えられる(3)。この種のNMDA-Rは、陽イオン(Na+,K+)を透過させるが、選択性は低い。Ca2+も細胞内へ透過させる事はこのチャンネルが関与する細胞毒性との関係において重要である(後述)。
一方、GRIN1とGRIN3から構成されるNMDA-Rは興奮性のグリシン受容体として機能しCa2+を透過させにくい陽イオン透過性チャネルを構成する(4)。グルタミン酸やNMDAはリガンドとしてチャネルの活動を制御しない(4)。
アルツハイマー病において、神経細胞の過剰興奮による細胞死にグルタミン酸が関与していると考えられている(5)。過剰な興奮は、神経細胞に様々な変化を引き起こすが、その1つは過剰なCa2+の流入である。アルツハイマー病や老化に伴い、NMDA-RにおけるCa2+の透過が亢進している事が観察される事から(5)。NMDA-Rからの過剰なCa2+の流入を防ぐための薬物(メマンチン)がアルツハイマー病薬として開発された(5)。この標的はGRIN1-GRIN2から構成されるNMDA-Rであると考えられる。
MIM ID GRIN1
MIM ID GRIN2A
MIM ID GRIN2B
MIM ID GRIN2C
MIM ID
GRIN2D
MIM ID GRIN3A
MIM ID GRIN3B
1. Sucher NJ, Awobuluyi M, Choi YB, Lipton SA. NMDA receptors: from genes to
channels. Trends Pharmacol Sci. 17:348-355, 1996 (PMID: 8979769)
2. Bliss
TV, Lomo T. Long-lasting potentiation of synaptic transmission in the
dentate area of the anaesthetized rabbit following stimulation of the
perforant path. J Physiol. 232:331-56, 1973 (PMID: 4727084)
3. Mayer ML,
Westbrook GL, Guthrie PB. Voltage-dependent block by Mg2+ of NMDA responses
in spinal cord neurones. Nature 309:261-263, 1984 (PMID: 6325946)
4.
Kavirajan H. Memantine: a comprehensive review of safety and efficacy.
Expert Opin Drug Saf. 8:89-109, 2009 (PMID: 19236221)
遠藤昌吾 20111115
Update 20120227