ICER; INDUCIBLE CAMP EARLY REPRESSOR
[別名]
CREM; CAMP RESPONSIVE ELEMENT MODULATOR D-L

キーワード

 cAMP、 CREB/CREM、転写因子、記憶

歴史とあらまし

 adenylate cyclase-cAMP-PKA系はほぼ全ての細胞に存在し、多彩な細胞機能を担っている。cAMPにより活性化されたPKAは、細胞質、細胞膜に存在するタンパク質をリン酸化する。さらに、PKA触媒サブユニットは核内へ移行して、転写因子CREB/CREMをリン酸化する事が知られている。リン酸化CREBはCREと呼ばれるDNA上の配列に結合する。リン酸化CREBはCEBP等と転写複合体を形成して、遺伝子の転写を活性化する。転写活性の停止には、CREBの脱リン酸化に加え、転写活性化抑制タンパク質も関与する。このような転写抑制タンパク質の1つであるICERは、cAMP-PKA-CREB系の活性化により転写が誘導される(1)。

分子構造

 ICERはCREM遺伝子内部のP2プロモーターから転写される。CREM遺伝子のP1プロモーターより上流のプロモーターが使われると転写活性化能及びDNA結合能を有するCREM mRNAが生成される。一方、CREM遺伝子内部に存在するP2プロモーターの下流には転写活性化に必要なtransactivation domainなどをコードする遺伝子が存在しないため、DNA結合部位のみを持ったICER mRNAが生成される(1)。

機能

 ICERはリン酸化CREB/CREMと同様にCREに結合するが転写活性を有しない。すなわち、ICERはリン酸化CREB/CREMとCREを競争的に奪い合い、転写を低下させて終結させると考えられる(1)。ICERは、cAMP-PKA-CREB/CREM系により活性化された転写を抑制する事で、遺伝子の発現を空間的、時間的に制御していると考えられる(1)。

老化・老年病における意義

 ICERのKOとoverexpressing マウスを用いた研究、あるいは、ICERを海馬に発現させた研究から、ICERは様々な長期記憶を“負”の方向に制御する事が明らかにされている(1-3)。すなわち、不必要に強烈な記憶を形成しないように、cAMP依存性の系を制御していると考えられている(1)。
 また、CREBやICERを過剰発現させた若齢動物では長期記憶に対する影響は見られないが、老化動物においてはCREB過剰発現が長期記憶を亢進し、ICER過剰発現が長期記憶を減弱させる事が明らかにされている(3)。老化動物においては、cAMP生成を介した情報伝達系の能力が低下しており、CREB の過剰発現はcAMP系の情報伝達を補い、ICER歯状発現は情報伝達能力の低下をさらに現弱させたためであると考えられ(3,4)、老化に伴う記憶低下改善の標的としてcAMP-PKA-CREB/CREM/ICER系は重要である(1,4)。

Database

MIM ID 123812

参考文献

1. Borlikova G, Endo S. Inducible cAMP early repressor (ICER) and brain functions. Mol Neurobiol. 40:73-86, 2009.(PMID 19434522)
2. Kojima N, Borlikova G, Sakamoto T, Yamada K, Ikeda T, Itohara S, Niki H, Endo S. Inducible cAMP early repressor acts as a negative regulator for kindling epileptogenesis and long-term fear memory. J Neurosci. 28:6459-6472, 2008.(PMID 18562617)
3. Mouravlev A, Dunning J, Young D, During MJ. Somatic gene transfer of cAMP response element-binding protein attenuates memory impairment in aging rats. Proc Natl Acad Sci USA. 103:4705-4710,2006.(PMID 16537429)
4. Enns LC, Ladiges W. Protein kinase A signaling as an anti-aging target. Ageing Res Rev. 9:269-272, 2010. (PMID 20188216)

作成者

遠藤昌吾 20111118

Update 20120227

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