インスリン様成長因子、成長ホルモン、IGFシグナル経路、癌
インスリン様成長因子(IGF)は成長ホルモンによる作用を仲介する分子として同定された。IGF-1はプロインスリンと高い相同性を示す [1]。IGF1-2は哺乳類の成長、発達に関与するだけではなく、癌との関係も多数報告されている。
ヒトのIGF1、IGF2をコードする遺伝子は、それぞれ第12番染色体(12q23)、第11番染色体(11p15)上に位置している。IGF1、IGF2タンパクは、それぞれ158個、180個のアミノ酸からなるポリペプチドとして合成され、その後N末端側とC末端側が切断され、70個、68個のアミノ酸からなる成熟型タンパクとなる。ヒトのIGFRをコードする遺伝子は、第15番染色体(15q26)上に位置している。IGFRタンパクは1367個のアミノ酸からなるポリペプチドとして合成され、N末端側にあるシグナルペプチドが除かれた後、2つに切断されることでαサブユニットとβサブユニットが合成される。2個のαサブユニットと2個のβサブユニットが複合体を形成し、IGF-1受容体となる。
IGF1-2は、下垂体から分泌された成長ホルモンの刺激によって肝臓から分泌され、骨格筋や骨などの組織に作用し、成長、発達を促進する。IGF1、IGF2がIGFRに結合すると、IGFRのαサブユニットがβサブユニットをリン酸化し、下流のPI3Kシグナル経路を活性化する。IGFシグナル経路と癌との関係が多数報告されており、癌細胞の増殖、代謝、生存にも関与しているものと考えられる。
ショウジョウバエや線虫などのモデル生物の研究において、ヒトIGFRのホモログと老化との関係が示唆されている[2,3]。またIGFRへテロ欠損マウスの寿命が26%延長したという報告がある。ヒトにおいては、IGFRとPIK3CB遺伝子の遺伝子多型が、血漿中のIGF-1レベルおよび長寿に関連するという報告がある[4]。しかしながら、IGFシグナル経路がヒトの老化に関係するかは未だ明らかにされていない。
IGF1(OMIM147440)
IGF2(OMIM147470)
IGF1R(OMIM147370)
1) Rinderknecht E, Humbel RE. The amino acid sequence of human insulin-like
growth factor I and its structural homology with proinsulin. J Biol Chem
1978;253:2769-2776.(PMID: 632300)
2) Tatar M, Kopelman A, Epstein D, Tu
MP, Yin CM, Garofalo RS. A mutant Drosophila insulin receptor homolog that
extends life-span and impairs neuroendocrine function. Science
2001;292:107-110. (PMID: 11292875)
3) Kenyon C, Chang J, Gensch E,
Rudner A, Tabtiang R. A C. elegans mutant that lives twice as long as wild
type. Nature 1993;366:461-464. (PMID: 8247153)
4) Bonafè M, Barbieri M,
Marchegiani F, Olivieri F, Ragno E, Giampieri C, Mugianesi E, Centurelli M,
Franceschi C, Paolisso G. Polymorphic variants of insulin-like growth factor
I (IGF-I) receptor and phosphoinositide 3-kinase genes affect IGF-I plasma
levels and human longevity: cues for an evolutionarily conserved mechanism
of life span control. J Clin Endocrinol Metab 2003;88:3299-3304. (PMID:
12843179)
藤田泰典
Update 20130117