LMNA; LAMIN A
[別名]
LAMIN A/C; LMNC; LAMIN C

キーワード

 核、核膜、筋ジストロフィー症、早老症、プロジェリア

歴史とあらまし

 ラミンは、核膜の内膜を裏打ちする網目構造を形成し、中間径フィラメントに属するタンパク質である。大きくA型とB型に分類される。A型ラミンは、ラミンA/C遺伝子からの選択的スプライシングにより生成され、ラミンA、A∆10、C、C2の少なくとも4種類のタンパク質が発現している。ラミンA/C遺伝子の変異によるヒトの遺伝病は数多く発見されている。常染色体性Emery-Dreifuss型筋ジストロフィー症、リポジストロフィー症、Charcot-Marie-Tooth症、Hutchinson-Gilford早老症などである。しかし、ほとんどすべての体細胞に発現しているA型ラミンの変異が、どのようにしてある特異的な遺伝病を引き起こすのかは明らかになっていない。

分子構造

 ラミンの構造は、4つの桿状ドメイン(1A、1B、2A、2B)に球状の頭部と尾部が結合したような形をしている(図)。尾部には核移行シグナル(Nuclear Localization Signal; NLS)とCAAXモチーフ(Cはシステイン、Aはロイシンやバリンなどの脂肪族アミノ酸、XはC末のアミノ酸)が存在するが、ラミンCにはCAAXはない。CAAXモチーフは、メチル化やファルネシル化などの翻訳後修飾を受ける。ラミンAとラミンCはホモダイマーを形成し、種々のタンパク質と相互作用している。

(Ref. 1参照)

機能

 通常ラミンAはプレラミンとして合成され、C末の18アミノ酸のプロセッシングにより、MatureなラミンA/Cが形成される。この過程には、CAAXのシステイン残基のファルネシル化及びメチル化が必要である。ラミンA/Cはクロマチンとも相互作用し、細胞分裂のときの核の分解と再構築、さらにテロメアのダイナミクスに関わっている。体細胞分裂の時には、ラミンA/Cはリン酸化され、網目構造が分解する。細胞分裂が終了すると、脱リン酸化されて網目構造に再編され、核膜が再生する。ラミンA/Cは、核内だけでなく様々なタンパク質と相互作用し、細胞骨格の動的機能やアポトーシス、さらにDNAの複製や転写、シグナル伝達にも関与していることが知られている(Ref. 1)。また、酸化ストレス負荷によりラミンA/Cが、分子シャペロンであるHeat shock protein 90 (HSP90)と複合体を作ることも報告されている(Ref. 2)。

老化・老年病における意義

 ラミンA/Cの変異により引き起こされる遺伝病はラミノパシーと呼ばれ、変異している部位により1)横紋筋、2)末梢神経、3)脂肪組織、4)全身に症状を呈する。早老症は全身性ラミノパシーともいう。HutchinsonとGilfordによって20世紀初頭に報告された Hutchinson-Gilford progeria syndrome (HGPS)は、800万人に1人という非常にまれな病気であるが、粥状動脈硬化症の早期発症など重篤な早老症状を呈し、平均寿命は13.4歳と短い(Ref. 3)。HGPSの原因は、異常ファルネシル化ラミンAである「プロジェリン」である(Ref. 4)。プロジェリンは、細胞分裂やDNA損傷シグナル伝達を阻害することにより細胞老化を促進すると考えられ、正常なヒトでも高齢者の皮膚ではプロジェリンが蓄積することが報告されている(Ref. 5, 6)。
最近、ファルネシル転移酵素阻害剤(Lonafarnib)が、動脈硬化、骨老化、聴力老化などのHGPSの臨床症状を緩和することが報告された(Ref. 7)。

Database

LMNA

参考文献

1 Broers JL, Ramaekers FC, Bonne G, Yaou RB, Hutchison CJ. Nuclear lamins: laminopathies and their role in premature ageing. Physiol Rev 2006; 86: 967-1008. (PMID: 16816143)
2 Nakamura M, Morisawa H, Imajoh-Ohmi S, Takamura C, Fukuda H, Toda T. Proteomic analysis of protein complexes in human SH-SY5Y neuroblastoma cells by using blue-native gel electrophoresis: an increase in lamin A/C associated with heat shock protein 90 in response to 6-hydroxydopamine-induced oxidative stress. Exp Gerontol 2009; 44: 375-382. (PMID: 19264120)
3 DeBusk FL. The Hutchinson-Gilford progeria syndrome. Report of 4 cases and review of the literature. J Pediatr 1972; 80: 697-724. (PMID: 4552697)
4 Reddy S, Comai L. Lamin A, farnesylation and aging. Exp Cell Res 2012; 318: 1-7. (PMID: 21871450)
5 Scaffidi P, Misteli T. Lamin A-dependent nuclear defects in human aging. Science 2006; 312: 1059-1063. (PMID: 16645051)
6 McClintock D, Ratner D, Lokuge M et al. The mutant form of lamin A that causes Hutchinson-Gilford progeria is a biomarker of cellular aging in human skin. PLoS One 2007; 2: e1269. (PMID: 18060063)
7 Gordon LB, Kleinman ME, Miller DT et al. Clinical trial of a farnesyltransferase inhibitor in children with Hutchinson-Gilford progeria syndrome. Proc Natl Acad Sci U S A 2012; 109: 16666-16671. (PMID: 23012407)

作成者

三浦ゆり、戸田年総 20121119

Update 20121121

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