PPP1R1A; PROTEIN PHOSPHATASE 1, REGULATORY SUBUNIT 1A
[別名]
IPP1; PROTEIN PHOSPHATASE 1 INHIBITOR 1
I1; INHIBITOR 1

キーワード

 脱リン酸化、PP1、内在性阻害タンパク質

歴史とあらまし

 タンパク質の多くの物はリン酸化されている。多くのリン酸化はタンパク質の機能制御に関与している。タンパク質のリン酸化においては、キナーゼが注目を浴びやすいが、可逆的なキナーゼとホスファターゼ両者の反応によりリン酸化状態が制御され、精緻な細胞反応に必須である。Inhibitor-1(I-1)は耐熱性、耐酸性のタンパク質としてウサギの骨格筋より単離された(1)。

分子構造

 Inhibitor-1はその1次構造が脊椎動物においてよく保存されており、ヒト、マウス、ラットでは171アミノ酸残基からなる、分子量約1.9kDaタンパク質である。ゲル濾過(60kDa)やSDS-PAGE(29kDa)上でははるかに大きな分子量の分子として振る舞う事から、水溶液中ではランダムな構造をとっていると考えられている。このことは、I-1の耐熱性(95C、5分)、耐酸性(酸で沈殿させたI-1は中性溶液中で可溶化できる)等の性質にも反映されていると考えられる。PP-1の内在性阻害タンパク質であるI-1とDARPP-32は、PP-1阻害に必要な2つのアミノ酸配列(R/K-K-I-Q-F………R-R-R-P-T(p)-P)を有している。cAMP-dependent protein kinase (PKA)によりT(p)がリン酸化される。このThr残基がリン酸化されたI-1のみが強力なPP-1阻害活性を有する。

機能

 PP-1は、タンパク質中のphospho-Ser、phospho-Thr残基を脱リン酸化する。その活性はR(制御)サブユニット及び内在性阻害タンパク質(I-1, I-2, CPI-17, DARPP-32, G-substrateなど)によっても制御される(PP-1の項参照;2)。これら内在性PP阻害タンパク質の中には、その阻害活性がキナーゼによるリン酸化に依存するものが多数存在する。I-1はPKAによりリン酸化される事によりPP-1阻害活性を獲得する。キナーゼに依存したPP阻害活性化は、キナーゼによる標的タンパク質リン酸化を維持してその生理機能を増幅する。すなわち、PKA活性化により標的タンパク質Xのリン酸化が上昇する。同時にPKAはI-1をリン酸化してPP-1が阻害される。この機構により、標的タンパク質Xの脱リン酸化が阻害されて、リン酸化が維持される。

老化・老年病における意義

 リン酸化を模倣し常にPP-1を心筋特異的に発現するマウス(3)や、I-1を心筋特異的に過剰発現させたが作出されている(4)。前者では、アドレナリンストレスをかけた幼若マウス、そして、老化マウスにおいて不整脈や心筋症が誘発される(3)。また、両マウスにおいて、心筋において、Ca2+により制御される2つのタンパク質、ホスホランバンおよびリアノジン受容体の高リン酸化をひきおこしていていることから、I-1はこれらのタンパク質の制御に重要な役割を果たし、老化に伴う不整脈や心筋症にPP-1-I-1系が重要な役割を果たすことが考えられる。

Database

MIM ID 613246

参考文献

 1.Huang FL, Glinsmann WH. Separation and characterization of two phosphorylase phosphatase inhibitors from rabbit skeletal muscle. Eur J Biochem. 70:419-426, 1976 (PMID: 188646)
2. Mansuy IM and Shenolikar S: Trends Neurosci 29:679-686, 2006 (PMID: 17084465)
3. Wittköpper K, Fabritz L, Neef S, Ort KR, Grefe C, Unsöld B, Kirchhof P, Maier LS, Hasenfuss G, Dobrev D, Eschenhagen T, El-Armouche A. Constitutively active phosphatase inhibitor-1 improves cardiac contractility in young mice but is deleterious after catecholaminergic stress and with aging. J Clin Invest. 120:617-626, 2010 (PMID: 20071777)
4. El-Armouche A, Wittköpper K, Degenhardt F, Weinberger F, Didié M, Melnychenko I, Grimm M, Peeck M, Zimmermann WH, Unsöld B, Hasenfuss G, Dobrev D, Eschenhagen T. Phosphatase inhibitor-1-deficient mice are protected from catecholamine-induced arrhythmias and myocardial hypertrophy. Cardiovasc Res. 80:396-406, 2008 (PMID: 18689792)

作成者

遠藤昌吾 20111115

Update 20120228

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