PRKAR2B; PROTEIN KINASE, cAMP-DEPENDENT, REGULATORY, TYPE II, BETA
[別名]
PRKAR2, RII-BETA

キーワード

 cAMP, PKA, ノックアウトマウス、寿命延長

歴史とあらまし

 adenylate cyclase-cAMP-PKA系はほぼ全ての細胞に存在し、様々な細胞機能に関与している。cAMPが明らかにされてから50年以上が経過したが、cAMPにより活性化されるPKAの細胞内基質は数百にも及び、新しいものが発見されている。PKAの機能は未だに重要な研究の対象となっている(1)。

分子構造

 PKAは2分子の制御サブユニット(R)と2分子の触媒サブユニット(C)とからなる、CR−RC構造をとっている(1)。この状態ではCサブユニットへ基質が接近できず、キナーゼとしては不活性である。4分子のcAMPがRサブユニットに結合して、CサブユニットをRサブユニットから遊離させる(CR-RC -> R-R+2C)。R、Cの両サブユニットはイーストからヒトまで、種を越えて極めてよく保存されている。たとえばヒトでは、3種類のCサブユニットと4種類Rサブユニットが報告されている。また、それぞれに様々なスプライシングバリアントが存在し、組織特異的な発現が観察されている。

機能

 遊離されたCサブユニットはキナーゼとして活性を持ち、Ser/Thrキナーゼとして機能する。細胞質や膜タンパク質をリン酸化するとともに、Cサブユニットは核へ移行して転写因子等様々な核タンパク質をリン酸化する。Rサブユニットは、cAMPを分解するホスホジエステラーゼとともに、cAMP-PKA系が有する細胞機能を時間的空間的に制御するために極めて重要な役割を果たしている。

老化・老年病における意義

 PKAの制御サブユニットの1つである、RII𝛽サブユニットは脂肪組織や脳において発現している。(2、3)。RII𝛽サブユニットを欠損させた若齢マウス(—/—)は、野生型のマウスに比較してやせており、静止状態での代謝が上昇し、また、体温や脂肪代謝が亢進していた。さらに、若齢マウスは高脂肪—高炭水化物食を与えても体重増加はなく、脂肪肝、インスリン耐性等の悪影響も回避できた。
 一方、老齢のRII𝛽欠損マウスでは、若齢マウスと同様に極めて健康的な老化が観察された(4; 特にオスにおいて);寿命延長効果(オス)、老化に伴う体重増加抑制、脂肪肝抑制、老化にともなう高インスリン症抑制、など。RII𝛽サブユニットの遺伝子を欠損させる事により、RI𝛽サブユニットの発現が補償的に上昇する事が観察される事から(5)。このことは制御サブユニット全体の絶対量が健康な老化に寄与するというよりは、RII𝛽の特異的な組織分布が健康的な老化に寄与することが考えられる(4)。

Database

MIM ID 176912

参考文献

 1. Beavo JA, Brunton LL. Cyclic nucleotide research – still expanding after half a century. Nat Rev Mol Cell Biol. 3:710-718, 2002 (PMID: 12209131)
2. McKnight GS, Cummings DE, Amieux PS, Sikorski MA, Brandon EP, Planas JV, Motamed K, Idzerda RL. Cyclic AMP, PKA, and the physiological regulation of adiposity. Recent Prog Horm Res. 53:139-159, 1998 (PMID: 9769707)
3. Cummings DE, Brandon EP, Planas JV, Motamed K, Idzerda RL, McKnight GS. Genetically lean mice result from targeted disruption of the RII beta subunit of protein kinase A. Nature 382:622-626, 1996 (PMID: 8757131)
4. Enns LC, Morton JF, Treuting PR, Emond MJ, Wolf NS, Dai DF, McKnight GS, Rabinovitch PS, Ladiges WC. Disruption of protein kinase A in mice enhances healthy aging. PLoS One. 4:e5963, 2009 (PMID: 19536287)
5. Amieux PS, Cummings DE, Motamed K, Brandon EP, Wailes LA, Le K, Idzerda RL, McKnight GS. Compensatory regulation of RIalpha protein levels in protein kinase A mutant mice. J Biol Chem. 272:3993-3998, 1997 (PMID: 9020105)

作成者

遠藤昌吾 20111115

Update 20120228

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