老化動物育成区収容マウス・ラットの寿命

実験動物施設 倉本和直

 

ここでは、本研究所老化動物育成区で育成され、所内供給されているマウスとラットの寿命について述べる。本区域では、マウスとして、B6D2F1C57BL/6雌×DBA/2F1)(B6D2F1/Crlj)とC57BL/6C57BL/6CrSlc)、ラットとして、WistarSlc:Wistar由来近交系)とFischerF344/DuCrlCrlj)の各雌雄を飼育している。

これらの平均寿命、755025%生存寿命、最長寿命を表1-1に示した。また、生存曲線を系統毎に示した(B6D2F1:図1-1C57BL/6:図1-2Wistar:図1-3Fischer

:図1-4)。これらはすべて老化動物育成区(バリア施設)内でSPF(感染症にかかっていない)、また自由食(飽食)の条件で飼育されたものである。飼育条件の詳細は表1-2に示した。

 

 マウスでは、B6D2F1は雄870日、雌783日の平均寿命を示し、C57BL/6は雄826日、雌766日の平均寿命を示した。いずれの性でも、B6D2F1がやや長寿命であった。また、いずれの系統でも、雄は雌より長寿命であった。最長寿命に関しては、これら2系統雌雄間の差異は小さく、1100日前後であった。一方、ラットでは、Wistarは雄810日、雌927日、Fischerは雄859日、雌946日の平均寿命を示した。いずれの性でも、Fischerがやや長寿命であった。また、マウスとは逆に、いずれのラット系統でも、雌が雄より長寿命であった。ラットでの最長寿命は、雌では系統による違いはほとんどなく、約1250日を示す一方、雄ではWistarが約1100日に対し、Fischerが約1200日を示し、異なった。

Fischerの雄については、制限食を施した場合の寿命も測定した(表1-1、図1-5)。制限食は、栄養学の研究としてよく行われ、通常、自由食(飽食)の場合の摂餌量やカロリーに対し、一定割合(8050%)を毎日与える方法が取られる。ここでの制限食は、そうした方法ではなく、簡便法として、毎週月、水、金曜日は自由食とし、他の曜日は絶食とする方法(平日隔日給餌法)により行った。この方法では、ラットの摂餌量は、月齢により異なったが、おおむね、自由食の場合の60%に制限された。また平均寿命は約20%延長した。

 

 実験用マウス、ラットは、遺伝因子も環境因子もほぼ一定と考えられるので、寿命も当然一定(どの個体も同じ寿命を示す)であることが期待される。しかし、@100200匹程度から成る入荷ロット間で寿命が大きく異なることがあり、またAここに示したような100匹の単位での測定でも変異係数(標準偏差/平均値)が0.170.20の範囲で見られるなど、実験動物の寿命も予想外にばらつきの大きいものである。経験的な数値であるが、実験群間での10%程度の寿命の違いは、何も処置をしなくても生じる範囲であるので、注意を要する。この寿命のばらつきの原因は、明らかになってはいないが、個別集団に起こる加齢性自然発生疾患の出現のかたより、1ケージ内に複数の動物を収容する群飼育、動物が母親の何回目の出産により出生したか(産次)の違いなどが考えられる。制限食は、加齢性自然発生疾患の発生を大きく抑制することが知られているが、ここに示したデータでも、制限食飼育により、平均寿命が20%延長しただけでなく、寿命の変異係数も0.14に減少した。老化の実験材料として、寿命のばらつきの少ない良質な老化マウス、ラットを得るには、制限食による加齢性自然発生疾患の抑制を含め、前述のような微細な環境の一定化を図ることが、今後の検討課題となろう。