1.寿命は遺伝子によって決まる
ヒューマンゲノムプロジェクトが国際共同研究で進行中で、最近の科学雑誌「ネイチャー」および「サイエンス」にヒューマンゲノムがマップされた記事が掲載されました。それでは、ゲノムのなかにヒトの寿命を決定している遺伝子がどのくらい存在するのでしょうか?最近の研究により、いくつかの遺伝子は確かに寿命の決定に係わっていることが判ってきています。従って、今後数十年のポストゲノム研究の中で、寿命や老化あるいは老人病の発症に係わる遺伝子が解明され、老化を抑えたり、治療したりする時代が訪れるのではないかと期待されます。これまでに、最も長生きした人は1997 年に122 才で亡くなったフランス人でカルマンさんという女性です。また疫学調査からもヒトの最大寿命が120 才前後である事が推測されています。ところが、実験室で飼育しているネズミはせいぜい数年しか生きません。この様に、動物の最大寿命(限界寿命)は種によって規定されています。その種の寿命特性を決めているのがやはり遺伝子です。この様な背景からヒトゲノム計画で明らかになる遺伝子情報が我々の寿命研究を大きく飛躍させると考えられます。
2. 先進国の平均寿命は伸び続ける
それでは、果たしてヒトの寿命には限界があり、現在伸び続けている平均寿命にもエンドポイント(限界点)が来るのでしょうか? 最近、米国の民間機関が先進7ヶ国の今後の平均寿命を予測した論文を科学誌「ネイチャー」に報告しています。
先進7ヶ国で最も長寿化が進行した国が日本で、現在の平均寿命は男79 才、女84 才、50 年後には、確実に90才を越える見込みです。
図1 に米国の20 世紀における平均寿命の推移のグラフを示します。平均寿命は各年齢別の死亡率から計算されるために、死亡率の減少と共に平均寿命が延長してきました。逆の見方をすると、平均寿命が伸び続けたのは、先進諸国における医療の進歩、衛生環境の改善、抗生物質の登場などにより死亡率が減少を続けた為にもたらされた結果ともいえます。
図1 の右欄に、20 世紀初頭の死亡原因のベスト10 と20 世紀末の死亡原因のベスト10 を並記しました。このリストから明らかなように、死亡原因が大きく入れ代わりました。20 世紀の初頭に大きな医学問題であった感染症が日本、欧米諸国などの先進諸国では、ある程度解決済みの問題となりました。もちろん1980 年代以降AIDS の出現などの新たな問題も発生しましたが、20 世紀の後半に死亡原因の上位をしめるに至った病気は、心臓病、癌、脳卒中等と云った生活習慣病でした。この様に、かつて寿命を制限していた病気が医学的に解決する事により、平均寿命が伸び続けたのが20 世紀の平均寿命の推移でした。それでは、今後21 世紀の平均寿命はどの様な推移になると予想されているのでしょうか。多くの専門家が、アルツハイマー病など以前には目立たなかった変性疾患の出現にもかかわらず、先進国における平均寿命は伸び続けるだろうと予測しています。
3. 寿命研究における遺伝学的アプローチ
現在、寿命研究に応用されている実験系は、培養細胞、酵母、線虫、ショウジョウバエ、マウス、ラット、サル、ヒトなどです。初代培養細胞や分裂酵母は分裂寿命を持つことから分裂寿命が研究のターゲットになっているのに対し、線虫、ショウジョウバエ、齧歯類(マウス、ラット等)、霊長類等の動物の寿命研究は主に個体寿命を研究のターゲットにしています。個体寿命となると、生物種により、その寿命は様々で、線虫は約3週間、ショウジョウバエは数カ月、齧歯類は数年、ヒト、特に現代人は70〜120年です。これらの動物種の中で、個体寿命自身を遺伝学的実験のスクリーニングに応用できるのは線虫とショウジョウバエです。