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公開講座

在宅ケアの国際比較

産能短期大学能率科
助教授 佐藤 百合子

 在宅サービスの定義やサービス内容は国ごとに差異がありますが、各国に共通しているのは、訪問看護サービスと家事援助・介護サービスです。これらは、6つのサービス群に分けられます。

 第一は、核となるサービスで、身体、精神、認知の機能に対する診断と評価を行い、ケア・プランを作成し必要なサービスの調整をはかります。

 第二は医療・介護サポートで、看護や医療のケアがこれに含まれます。

 第三が家事介護サポートで、清掃、食事、洗濯などの日常家事から、高齢者本人の入浴、食事、排泄、散歩等の生活機能の補助があります。

 第四が住環境サポートとして、家の保持・管理などです。

 第五が法的・財政的サポートで家計管理・財産管理・法務処理などです。

 最後がソーシャル・サポートとして、訪問、話し相手になるなど、障害の有無に関係なく、生き生きとした生活を送るために必要なサービスです。

 以上挙げたサービスは個人によって必要度の濃淡がありますし、複数のサービスを必要とすることが多いので、それらを有機的にかつスムーズに組み合わせて高齢者に提供出来ることが望ましいのです。そしてこれらの供給の仕方には国のシステムや考え方により、相違があります。以下で、少し各国の事情を見ていくことにします。

1. 在宅介護の実施方式

 在宅サービスの供給の仕方、あるいは組織の在り方には大きく分けて分権化モデルと中央集権化モデルに分けられます。

 分権化モデルとは、地方自治体特に市町村がサービスの多くを供給する責任を持つ行政システムであり、ノルウェー、スウェーデンなどがこれにあてはまります。中央政府はサービスの実施基準の最低限度を定める他はその具体的内容に介入することはありませんが、保険福祉政策の財源の大部分は公的支出です。中央政府は情報収集と予算の補助を行います。この方法の利点は、二一ズに対して柔軟に対処出来ることです。また責任感も高まります。

 一方中央集権化モデルでは、中央政府や地方政府がサービス供給の責任を持ちます。イギリスや、ドイツ、日本、アメリカ、カナダ、オランダなどで、財源が国庫負担であると同時にサービスの内容や供給体制にしても中央政府が統一基準やルールを提示し、現場は、それらに従う事になります。この方式の利点は手続きの一貫性やサービス水準の同質性が保てることです。

 どちらかというと中央政府(連邦政府)より州政府の権限が強いアメリカ、カナダなどは、分権化モデルと中央集権化モデルの中間型ということも出来ましょう。カナダでは在宅ケアを公的な施策としては採用していない代わりに、州に立法権、実施権があります。アメリカでは基本的には民間部門が実際の供給を行っており、政府はメディケア、メディケイドを通してコントロールしています。

 また長期介護や医療政策に対する基本的な考え方によって、在宅介護政策に相違が出てきますが、それらは社会化モデルと個人自助努力モデル、中間モデルに分けられます。社会化モデルとは、在宅や施設での長期介護や医療を社会全体で見ていくこと、すなわち税金ですべての費用を賄うことをいいます。そのためには、国民全体が、介護を社会的なものであるという認識と合意を持つ必要があります。その代表的な国はノルウェーやスウェーデンです。これらの国々では、高齢者問題に対する対策をどのようにすべきか、かなり長期にわたって国民レベルでの議論を行ってきました。その結果、高福祉・高負担のシステムが実現しました。

 一方、個人の自助努力を基本にするアメリカのような国もあります。アメリカでは基本的には病気も介護も個人の問題、個人のリスクの問題であると考えられています。高齢者にかかわる医療・介護に関する公的制度は、メディケイド、メディケアがあります。しかし長期介護に関しては、貧困者用の医療保険であるメディケイドを適用することになります。ですから、基本的には自助努力として民間の保険に入り、いよいよ資産が尽きたら公的制度の世話になるパターンが一般的でした。

 日本はどちらかといえば、その中間モデルと言えましょう。基本的には個人よりも家族という資源を利用する、ある意味での自助努力型ですが、介護が不可能になった場合や単身の場合は、政府による措置制度によって、公的施設に入所することができます。また、家族介護の支援策としての公的サービスも充実してきました。しかし、介護をすべて社会化するには大きな抵抗があります。

 以下では、これらのモデルの代表的な国である日本、アメリカ、スウェーデンについて比較を行います。

2. 長期介護の国際比較

1) 国民負担率
 社会保障給付費の国民所得に占める割合は1965年から1985年までの20年間で、どの国も2倍以上増大しています。また負担の方を表1で見ますと、租税と社会保障を合わせた国民負担率は、1992年(度)、日本が37.7%、アメリカが36.2%、スウェーデンが69.3%となっています。なかでもスウェーデンでは租税負担率が48.9%と他に比べて非常に高くなっています。

 アメリカは自助努力型ですが、それでも負担率はかなり高率となっており、これ以上の負担は避けたい方向であるといえます。それは、アメリカの高齢者の所得がそれ以外の世代の伸びを上回っているのに、老人医療費が高騰し(より高度な医療を求める結果です)、財源をめぐる世代間対立が激しくなることが予想されているからです。

 一方日本でも同じような現象がおきています。特に医療費の増加に伴い、アメリカと同じように定額制の導入や消費税の増額など出入の両側から対策が検討されていますが、介護政策充実のためには、国民負担率はいずれは50%には達するだろうという予想が成されています。

表1. 社会保障給付費、国民負担率の比較
 日本  アメリカ スウエーデン
社会保障給付費 対国民所得比率(1991) 13.8 18.0 49.0
国民負担率(1992) 37.7 36.2 69.3
 租税負担率 25.5 25.6 48.9
 社会保障負担率 12.2 10.6 20.4

2) 在宅介護の比較
 アメリカでは伝統的に自助勢力の考えがあり、在宅ケア・サービスの直接の担い手は、民間部門であり、病院、営利企業、非営利団体、訪問看護協会などです。資金調達の方法は、公的保険であるメディケア、メディケイドによる償還と民間保険を通じた個人負担などです。メディケアは高齢者用医療保険で、在宅部門では、外出困難な高齢者への在宅医療が目的であり、介護とは少し異なります。またメディケイドは貧困者用の保険ですが、その多くは施設介護に使用され、予算との調整もあって、在宅介護にまわってくる予算は4%程度です。必然的に個人負担が多くなり、ヘルス・ケア産業が病院を主体として増加しています。そのサービス内容に制限はなく、多様なプログラムがあります。その結果、民間介護保険の需要が伸びてきているのです。

 一方スウェーデンでは、すべてのプログラムの供給主体が市町村ですので、租税負担率は高くなりますが、障害を持っても安心して在宅で暮らすことができます。サービス内容が多様であり、また一人で複数のサービスを受けることができます。これは1982年にできた「社会サービス法」によって、だれでも質の高いケアを受ける権利があると保障された結果でもあります。また、さらに効率性を確保するために、民間委託を推し進めています。

 日本では、長期介護について、施設介護から在宅介護へ、中央集権モデルから分権モデルヘと大きく転換しつつあります。それらは高齢者のQOLの向上、自己決定権などの視点と柔軟な個別対応の必要性からです。介護者、要介護者を援助するための公的プログラムも充実してきましたが、まだまだ高齢者の自立支援策としての厚みが不十分です。また、財源対策として、自己負担率の問題、公的介護保険の導入などが検討されていますが、サービス供給の主体者としての市町村の自立と並んで、需要者として介護に関わるすべてを公的サービスで賄うには、介護の社会化についての国民全体の合意が必要なのではないでしょうか。

まとめ

 以上簡単に在宅介護に関連して国際比較を行いましたが、介護に関わるサービスで社会化されたシステムを選ぶか、それとも個人の自己負担を中心にするかはそれぞれの社会における価値観に立脚するとは思いますが、どの国でも長期介護における家族介護の限界は指摘されています。公的制度と自助努力、あるいは地域における助け合いなど、住民の合意形成に向けて開かれた議論が進むことを期待いたします。


佐藤 百合子 (さとう ゆりこ)
1949年生まれ。東京女子大学文理学部卒業。名古屋市立大学大学院経済学研究科博士課程修了。国際長寿社会日本リーダーシップセンター、芦屋大学を経て1996年より現職。専門は経済学、老年社会学。医療や介護の国際比較、高齢者の自己決定権についての研究を行っている。論文「介護費用の日米比較」「高齢者の自己決定権とQOL」「活動平均余諭の日米比較」など。



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2002/11/26

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