心臓と血管の老化
心臓と血管の老化
老年者では、若年者とは異なった心臓血管の反応を示します。運動に対する心臓の収縮回数(心拍数)の低下、血圧の上昇、腎機能の低下、心臓、血圧反射の低下、血管の硬さの増加などです。これらは、病的なものではなく、年齢とともに進行します。これらの心臓、血管の変化を”老化”と言うことができます。また、高血圧、糖尿病、高脂血症、喫煙は、これらの老化を増幅し、狭心症、心筋梗塞、心不全や脳梗塞をもたらします。しかし、これらの心臓や血管の進行した老化は、もとに戻らないと考えられていましたが、最近の研究では、若い時期のみならず、老いてもこの老化の進行を抑えることが出来ることが分かってきました。
心臓血管の老化には二段階がある
まず血管の話をしましょう。これは心臓の老化も、これを養う血管の老化に還元出来るからです。今まで血管の老化は、血管の動脈硬化や血栓形成など、進行性血管の障害を示すものでした。とくに、高血圧や糖尿病では、著しい血管の壁の肥厚や、内腔の狭窄、閉塞を示します。しかし、最近、その構造の変化の前に、早い段階では血管は機能的な障害を受けることが分かってきました。
これは血管自身が自らホルモンを分泌するためであります。この80年代以後に多くのこれらの新しい物質が発見されました。中でも血管の内腔をおおう内皮細胞(一層の細胞からなる)がN0(一酸化窒素)という強力な血管拡張物質を分泌することが分かりました。血管の老化は、まずこのNOの分泌が減少することから始まることが分かってきました。多くの刺激を血管の拡張へと導くNOの減少により血管の拡張障害による血流の減少、また血栓の形成が生じます。これらの機能的変化が準備され動脈硬化という構造的変化が生じるのです。また、血管から産生されるアンジオテンシンやエンドセリンと言った収縮物質も血管障害を増幅します。
一方、心臓についても同様です。心臓は、心臓の筋肉細胞(心筋細胞)とそれをとりまく間質細胞と、血管からなります。心筋細胞は収縮、弛緩をする細胞で、心臓収縮そのものを反映します。一方、間質細胞は、心筋細胞を保持する細胞です。血管(冠動脈)は、これらの心筋細胞と間質細胞に酸素や栄養を供給する役割を持っています。冠動脈の動脈硬化により狭心症や心筋梗塞を生じ、心不全をもたらします。しかし、早い段階の老化では、血管のNOが減少し、酵素の供給低下とともに心筋細胞の障害を生じます。また、高血圧では、心臓に大きな負荷がかかるため、心筋細胞自身もアンジオテンシンを産生し、心肥大、心筋梗塞、心不全の障害をもたらします。
また、心臓の心房とよばれる部分では、心臓のホルモンである心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)がつくられ、血中に放出されます。これは、高血圧など、心臓への負担が大きくなると心臓自らが利尿作用をもつホルモンを分泌するわけです。最近では、心室と呼ばれる心臓のポンプ作用を示す部分でもBNPと呼ばれる同様の利尿ホルモンがつくられることも分かりました。
心臓と血管の老化の治療と予防
以上のことから、心臓と血管の老化は、かなり進んだ構造的変化を示す状態のものと、早い時期で機能的変化を示す状態があることが分かりました。現在行われている治療は主に心臓や血管の構造的変化を来した状態での治療が多いわけですが、早い時期での治療も可能である訳です。とくに、早い時期では、正常に近い状態に戻すことができ、また老化の進行をゆっくりすることができると考えられます。実際、高血圧の治療、高脂血症や糖尿病の治療、肥満の改善、禁煙、適度の運動は、血管の機能的老化を防ぐことが分かってきました。これからの医学は、このように予防戦略が重要であり、心臓と血管の老化の進行を、早くから遅らせることが大事であると考えられます。
上田 清悟 (うえだ せいご)
1947年生まれ。東京大学医学部卒業。医学博士。東京大学医学部第三内科助手を経て、'87より現職。84〜87年ハーバート大学医学部、タフツ大学医学部留学。現在、心筋代謝及び内皮細胞代謝の研究に従事。論文多数。

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