司会のことば
財団法人東京都老人総合研究所
神経病理研究部長 水谷 俊雄
痴呆という医学用語は日常会話にもテレビドラマにも頻繁に飛び出してきています。しかし、本当に私たちは「痴呆」という言葉の意味を理解しているでしょうか。物忘れは痴呆でしょうか。「ボケ」と「痴呆」は同じなのでしょうか。物忘れも痴呆という症状のひとつですが、物忘れ=痴呆ではありません。いわんやアルツハイマー病=痴呆ではありません。こんなところが痴呆の理解を難しくしているように思われます。さらに痴呆以外の精神症状が現れることもしばしばありますが、それも痴呆という症状を誤解してしまう一因でしょう。
今回の公開講座は、痴呆研究の最先端をご紹介するのでもなく、またアルツハイマー病や脳血管性痴呆という病気を解説するものでもありません。痴呆という症状はさまざまな病気や原因であらわれますが、痴呆の正しい理解なくして病気の理解も対処もありえないと考えまして、このような企画をいたしました。
最初のお二人の先生は精神科医として日々痴呆患者さんの診療にあたられるとともに、当研究所と共同研究を行っておりまして、その豊富な経験から解説をお願いしました。まず天野先生には今回のメインテーマである「痴呆のいろは」と題して、痴呆とは何か、ボケとはなにかといった点を中心にお話しいただきます。次の新井先生には痴呆やそれ以外の精神症状に対してどんな治療法があるのか、といった点をお話しいただきます。そして最後に、患者さんのためにどのような支援体制があるのか、といったことがらについて当研究所の本間先生が解説をいたします。痴呆はその理解を誤ると人格や人権にも触れかねないという点で医学の問題だけにとどまりません。頭痛や腹痛とはまったく異なる症状なのです。それだけに痴呆を正しく理解し認識することは患者さんを支える私たち家族や周囲の人達、そして社会にとって大変重要なことだと考えます。

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