しっかり歩いて寝たきり予防
歳をとると歩き方が変ってくることや歩けることと健康との関係についてはお分かり戴けたと思いますので、私は毎日患者さんと接している臨床医の立場から、しっかり歩くと病気が予防でき、それが寝たきり予防にも繋がることについてお話を致します。
私達の先祖が狩猟をしていた頃は病気の中心は栄養不足や食中毒、怪我であったようですが、人々が集まって村に住み、都市に住むようになってくると結核やコレラなどの伝染病に悩まされ出しました。これらの時代の人達にとって歩くことが健康や病気予防にさして関係はなかったと考えられます。ところが、人生80歳代と長生きができるようになり、飽食時代で肥満気味となっているうえ、車社会により誰れしもが歩かないで毎日の生活を送れるようになってくると、改めて歩くことの重要性、必要性が再認識されるようになってきたのです。
例えば、歩くことが肥満防止を介して動脈硬化、糖尿病、高血圧の予防に繋がります。これらの病気が心臓にダメージを与えますと心筋梗塞となり、脳神経に対しては脳梗塞、脳出血、脳塞栓の原因となり、腎臓に対して影響すると腎不全となります。いずれも日常の活動性を低下させ、寝たきりの原因ともなる病気です。これら生活習慣に関係して生じる病気と歩行や運動との関係については既によく知られていますが、高齢になって肺の膨らみ、縮みが悪くなって息苦しくなる病気を治すにも歩行が有効だったのです。肺の働きが低下する病気を慢性閉塞性肺疾患といいますが、これに対して種々な呼吸訓練をするよりも、歩くなどの全身運動が肺の働きを改善し、生活を豊かにします。毎日の歩行は骨の中の血液の流れをよくし、骨を強くします。その上、毎日の散歩は姿勢をよくし、膝をよく伸ばし、あしの力を強くするなどを介して転びにくくすることが分かっています。
東京都が5年毎に行っている調査では高齢者が寝たきりになる原因で最も多いのが脳卒中10年前に比べて1.5倍に増えて増加率の高いのが骨折です。とくに太腿の付け根の骨折は80%の人達が転倒により生じ、生じた人の19%が寝たきりになっているのです。このことから、しっかり歩くことは病気を防いで寝たきり予防につながることがお分かりいただけたと思いますが、これはよく歩く人は医療費が少なくてすむことからも証明されています。しっかりと歩いて、病気を防ぎ、寝たきりを防ぎましょう。
林 泰史
京都府立医大卒業。医学博士。東京大学整形外科、東京都老人医療センター整形外科入局後、米国テキサス大学骨代謝科留学、東京都老人医療センター整形外科医長、同センターリハビリ部長、東京大学講師、東京都リハビリテーション病院副院長、東京都衛生局健康推進部部長、東京都衛生局技監を経て、平成11年より現職。主な著書に、「X線像から診断する骨粗鬆症」(ライフサイエンス)、「骨の健康学」(岩波新書)、「日常生活指導のためのリハビリ・テクニック」(文光堂)、「褥瘡の治療と対策」(医薬ジャーナル社)、「ひざ・あしの痛み」(PHP研究所)他、多数。日本骨代謝学会、日本リウマチ学会指導医、日本リハビリ学会専門医、日本老年病学会指導医、及び各学会評議員、日本整形外科学会認定医等を務める。

|