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公開講座

MRIで見る脳の老化 ─脳の縮み具合がわかる─

東京慈恵会医科大学附属柏病院
副院長 笠原洋勇

1 はじめに
 脳の老化を示す所見は、肉眼的にも、顕微鏡的にも明らかに観察できることが、多くの研究者によって指摘されてきました。既に、18世紀の報告をみても、高齢者の脳には萎縮(縮み)が見られ、それによって空間となった部分は、脳脊髄液で満たされていることが記述されています。脳の重量(重さ)は、加齢とともに減少し、80歳を過ぎると約7%少くなると述べる報告もあれば、日本人の脳の重さは、男女とも60歳をすぎると急激に減少し、高齢者では50〜150g(約5〜10%)の減少が見られるという報告もあります。
 神経細胞数の加齢による減少は、大脳皮質および小脳皮質で明らかですが、生命維持の基本的役割を担う脳幹の一部では減数がみられません。これらの所見は、生理的であり、病的萎縮と異なります。
 脳の病的萎縮が見られるものに、高齢者特有の疾患であるアルツハイマー型痴呆などの痴呆性疾患があります。痴呆性疾患では、萎縮(縮み)が顕著であり、診断上重要な手がかりになります。つまり、脳の縮み具合によって生理的かあるいは病的かを判定することは、高齢者の健康の指標のひとつとして大切な役割を担っているとみることができます。

2 レントゲンからMRIへ
 1895年X線が発見され、生きた体の臓器を視覚的に写しだすことができるようになりました。胸部X線写真は、胸部の健康診断や早期発見に役立っており、X線技術のもたらした功績と言うことができます。しかし、頭部X線は、骨の形態については、微細な点まで構造をとらえることができますが、脳の組織を形態的に判断することはできません。
 1972年微量のX線を用いたコンピューター断層撮影(CT)が開発され、脳をふくむ頭部の構造が視覚的にとらえることができるようになりました。CTの画像の構成は、一定の小さい単位容積あたりのX線吸収を正確に測定し、その平均値に対応して濃淡をつくることによって画像として写しだすことが可能になりました。
 1977年核磁気共鳴と言う現象を用いることによって生体の組織を写しだすことが可能であるとの報告がされました。核磁気共鳴とは、磁場にさらされた原子核が特定の周波数の電波に共鳴して自ら電波を発信する現象を言います。実際に臨床的に応用されるようになったのは、1980年代に入ってからであり、核磁気共鳴画像(MRI)と呼ばれ、脳の各組織を画像により鮮明に写すことを可能にしました。ただし、強い磁場で行われる検査であるために金属を身につけて行うことは絶対に避けなければなりません。

3 MRIは何をとらえているか?
 磁気共鳴の対象は、プロトンですが、プロトンは水素原子の原子核であり、生体内の水の動態を写しだすことができます。血管内や脳脊髄液の主成分は水であり、細胞内や細胞間にも蛋白と結合した水が存在します。生体の中には血液や脊髄液のように流れる水がありますがそれを、プロトンの存在量(プロトン密度)として描きだします。

4 MRIの長所
 電離放射線を用いたX線撮影と異なり、X線被爆がない点はきわだった特徴と言えます。またコントラストの分解能に優れていますが、それはT1、T2、陽子密度など多様な方法を用いるからであり、それにより鮮明な画像を得ることができます。画像として得られる断面は任意に、自由に得られるのも利点であり、またCTでみられる骨のアーチファクト(人工的な変化)などの問題がないのも特徴であります。

5 MRIを用いた健康なボランティア老人の追跡研究
  筆者らは1982年から、健常老人133名の協力をえて、10年間に4回の画像と記憶についての検査である「ベントン視覚記銘テスト」を実施しました。ベントン視覚記銘テストは、10枚の図形を1枚ずつ記憶していただき紙面に鉛筆で画いて頂く簡単な方法です。10年後には、99名が生存されていましたが、19名(14.3%)が痴呆になり、34名(25.6%)が亡くなられていました。この結果より、痴呆になった方とそうでない方を比較したところ、より高齢の方、男性より女性の方、記憶の正確さに欠ける、脳の記憶の中枢領域の萎縮があるなどが痴呆と関連していることがわかりました。
 またさまざまな病因により、亡くなられた方の調査開始時の脳の特徴は、脳の無症候性小梗塞を認め、より高齢であり、記憶の正確さ、脳の皮質の萎縮(縮み)がみられることなどをあげることができました。より長生きをし、元気に暮らすためには、身体の健康に気をつけ、脳の適度な刺激を欠かさないことが必要と考えられます。


笠原 洋勇(かさはら ひろお)
東京慈恵会医科大学卒業。昭和45年慈恵医大精神医学講座に所属、平成元年同大学附属柏病院精神神経科長、平成3年同病院老人性痴呆疾患センター兼任、平成10年同病院精神神経科診療部長、同大学教授、柏看護専門学校校長、平成13年1月より現職。また、昭和50年より東京都老人総合研究所非常勤研究員を兼任。 高齢者の精神障害(アルツハイマー型痴呆、うつ病等)の臨床と研究に取り組んでいる。


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2002/11/26

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