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公開講座

ポジトロンCTでみる脳の老化 ─脳の働きがわかる─

財団法人 東京都老人総合研究所
ポジトロン医学研究部門 石井賢二

1 形態画像と機能画像
 生きた体の状態を、目で見ることのできる画像として捉える方法を画像診断といいます。近年、診断技術やコンピュータの発達により、画像診断は医療や医学研究の分野で大変重要な役割を果たすようになりました。画像診断は、主として形の変化を見る「形態画像」と、働きの変化を見る「機能画像」に分けることができます。形態画像には、レントゲン撮影、X線CT、超音波、MRIなどがあり、機能画像には脳波図、脳磁図、シンチグラム、SPECT、ポジトロンCTなどがあります。

2 ポジトロンCTとは
 ポジトロンCT(PET)とは、ポジトロン(陽電子)を放出する放射性同位元素で標識された放射性薬剤を被験者に投与し、体内から出る放射線をPETカメラで撮影し放射能の分布を断層画像に撮影することによって、脳などの臓器の働きを画像として描き出す検査法です。
 放射性同位元素とは、放射線を出しながら壊れて無くなっていく物質ですが、放射線を出す以外は普通の物質と同じようにふるまいます。放射性同位元素を含んだ物質(放射性薬剤)は、いわば放射線という信号を出す発信器(しるし)を内蔵した物質なので、カメラでその居場所を時々刻々と追跡することができます。
 断層画像とは、生きた体(臓器)を輪切りにしたような状態で撮影する方法です。この方法を使うと表面から見ることのできない臓器の内部の構造や働きを詳しく調べることができます。
 ポジトロンCTを使うと、脳などの臓器の血流、代謝、神経伝達などを調べることができます。これにより、脳のはたらきが加齢によってどのように変化するかや種々の病気がどのような性質をしているかを調べる研究が行われています。

3 脳の働きをみる
 脳の重さは体重の2〜3%に過ぎませんが、心臓から送り出される血液の15%を受け、全身で消費される酸素の20%、ブドウ糖の25%を消費しています。このように脳は非常に活発に活動している臓器なので、安静にしている状態で血流や酸素代謝、ブドウ糖の代謝を測ると、脳の全般的な活動状態・健康状態がよくわかります。脳血管障害や老年痴呆などの脳の病気では、実際に症状が出る以前から、脳の血流や代謝に変化が現れていることが多く、ポジトロンCTにより病気の早期診断を行うことができます。
 また、脳は場所によって働きを分担しています。言葉の機能を司る言語野はふつう左半球にあります。運動や知覚をあつかう運動感覚野は両側の脳の表面中央部にあります。視覚の情報を処理する視覚野は脳の後ろのほう、後頭葉というところにあります。脳は活動状態の応じて、血流や代謝を変化させるので、ある課題をしたときに脳の血流がどのように変化するかを測ると、その課題に関連した脳の機能を調べることができます。これを脳賦活検査法と呼んでいます。この方法は脳の特定の機能の状態を調べるのに適した方法です。

4 脳のはたらきの加齢変化
 ポジトロンCTにより脳のはたらきの加齢による変化を調べることができます。歩行をする際、小脳は体のバランスをとる大事な役割をしていますが、歩行時に賦活される小脳の代謝は、加齢と共に減少する傾向にあり、歩行機能が加齢と共に低下する傾向とよく一致しています。また、脳血流の変動の度合いを調べた結果でも、加齢と共に低下する傾向が認められます。しかし、加齢による変化は必ずしも単調な機能低下ではないことがわかってきました。ポジトロンCTからみた脳の加齢変化とは、ある部分の機能低下とそれを代償する機能的な再構築を含んだダイナミックな変化だと考えることができます。
 ポジトロンCTを用いて生きたままの脳の働きを調べることによって、いち早く病気の始まりをとらえ、早期の治療が可能になります。また将来的には、機能低下を予測して、機能回復のための有効な予防法や治療・訓練法を見いだすことができるようになると期待されています。


石井 賢二(いしい けんじ)
 京都大学卒業。昭和60年京都大学医学部神経内科、昭和61年東京都老人医療センター神経内科勤務を経て、平成2年4月より東京都老人総合研究所ポジトロン医学研究部門勤務。この間米国立神経疾患脳卒中研究所に留学。 ポジトロンCTを用いて脳の加齢変化や機能的再構築の研究、老年痴呆や脳血管障害など脳神経疾患の診断と病態の解明に取り組んでいる。


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2002/11/26

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