〜 メタボリックシンドロームや糖尿病の予防法開発へ 〜

「糖尿病に罹りにくいミトコンドリアDNAの個人差を特定」

米国人類遺伝学会誌「American Journal of Human Genetics」において研究成果を発表


 このたび、東京都高齢者研究・福祉振興財団 東京都老人総合研究所の福 典之 主任研究員、西垣 裕 研究副部長、田中雅嗣 研究部長らは、日本人および韓国人で約4%の頻度で見つかるミトコンドリアDNAの型(ハプログループN9a)を有する人が糖尿病に罹りにくいことを明らかにしました。この研究成果は平成19年1月22日に米国人類遺伝学会誌「American Journal of Human Genetics」に掲載されたのでお知らせします。(要旨が閲覧可能)。なお、本研究は、三重大学生命科学研究支援センター山田芳司教授、岐阜県国際バイオ研究所野澤義則所長ら岐阜県立3病院(岐阜・多治見・下呂温泉)、および韓国のソウル大学医学部内科学講座Hong Kyu Lee教授の共同研究グループの研究グループとの共同研究として行われたものです。

1. 研究目的

 細胞核の染色体にDNA(デオキシリボ核酸)が存在しており、ここにひとそろいの遺伝子のセット(ゲノム)の情報が含まれている。これまでのゲノム研究の多くは、この染色体DNAについての研究である。一方、「ミトコンドリア」は、細胞の中に網の目のように張り巡らされている構造(細胞内小器官)で、細胞が必要なエネルギーを作りだす働きをしているが、興味深いことに、もう一つの「ゲノム」であるミトコンドリアDNAを持っている。このミトコンドリアDNAは、両親から半分ずつ伝えられる染色体ゲノムとは異なり、全てが母親から子へ伝えられるという特徴を持っている。 田中部長らは、100歳を超える長寿者11名に特徴的なミトコンドリアDNA配列(多型)があることを1998年に報告し、世界的に注目された(Tanaka Mら、Lancet 1998)。その後、日本人672人のミトコンドリアゲノム全塩基配列を調べ、2003年からミトコンドリアゲノムの多型に関するデーターベース(http://mtsnp.tmig.or.jp/mtsnp/index.shtml)を公開するとともにGenome Research (Tanaka Mら、2004)に報告した。このデーターベースを元に、ミトコンドリアゲノムの型(ハプログループ)の網羅的解析システムを開発した。本研究では、岐阜県立3病院を受診した2,906人(糖尿病患者1,289人・正常対照1,617人)ならびにソウル大学医学部附属病院を受診した1,365人(糖尿病患者732人・正常対照633人)について、糖尿病への易罹患性または罹患抵抗性に関連するミトコンドリアハプログループの探索を行った。

2. 研究成果の概要

 日本人および韓国人で約4%の頻度で見つかるハプログループN9aを有する人が糖尿病に罹りにくいことが明らかになった(オッズ比0.55)。特に日本人ではハプログループN9aを有する女性は糖尿病に罹るオッズ比が0.27と、他の型を有する女性より糖尿病に罹る危険度が4分の1になることが分かった。一方、東南アジアで頻度の高いハプログループFを有する日本人は糖尿病に罹りやすいことが明らかになった(オッズ比1.54)。  ハプログループN9aに属するミトコンドリアゲノムでは、12358番目の塩基がアデニンからグアニンに変化している。このため、電子伝達系複合体?の第5番目のサブユニット(ND5)の8番目のアミノ酸がトレオニンからアラニンに変化している。このアミノ酸配列の一カ所の違いが、ミトコンドリア機能に影響を与え、糖尿病に罹りにくい体質の基礎となっていると推定される。現在、糖尿病だけでなく、メタボリックシンドローム・心筋梗塞・脳卒中でも関連するミトコンドリアゲノム多型が見つかっている。

3. 発見の意義

 糖尿病やメタボリックシンドロームなどに罹りやすい遺伝的体質を知ることにより、例えば発症前から身体運動や食事などの質や量を個別にアドバイスすることができる。これにより、その発症を抑えることを可能し、国民の医療費負担を軽減できるだけでなく、個人の「生活の質」を向上できると考えられる。現在、東京都老人総合研究所とソウル大学は、ハプログループN9aに属するミトコンドリアゲノムの機能的特徴を明らかにするために、細胞レベルでの共同研究を進めている。ミトコンドリアDNAの1ヶ所が変化するだけで、長寿になったり、生活習慣病にかかりやすくなるとすれば、ミトコンドリアの働きを長寿型に変えてしまうような薬を開発することによって、健康長寿のための薬が開発できる可能性もあり、今後、ミトコンドリアの働きを変える薬の開発研究が進歩することが期待される。


東京都高齢者研究・福祉振興財団 東京都老人総合研究所 
健康長寿ゲノム探索研究チーム 健康長寿ゲノム探索研究チーム
研究部長 田中 雅嗣(たなか まさし)

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2007/04/11
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