保健・医療・福祉における国際比較の枠組み

 

姉崎 正平(日本大学)

 

 演者(姉崎)は、各国の保健医療を研究する枠組みを提示したことがある1。それは保健医療国際比較研究をも考慮したものであった。その枠組みは労働過程論と社会発展段階説に依拠していた。これらは現在でも有用ではあるが、機械的適用は保健医療の現状や社会の動向に照らして、修正や検討を要すると思われる。

 先ず、労働を主体、対象、手段の3要素から構成されるとするが、保健医療の対象とされる患者・国民は人権思想の高まりのみならず保健医療の効用の面からも、保健医療従事者から一方的に働きかけを受ける受動的存在ではなく、主体性ある存在になってきている。

 さらに、原始共同体、封建社会、資本主義から社会主義へという発展段階説に合わせた保健医療政策・制度の改革という図式も社会主義体制の崩壊以来再検討を迫られている。

 しかし、保健医療従事者と患者・国民が対等な立場としても、労働の技術過程と組織過程に対応して、保健医療供給体制と保健医療経済体制を考えることは妥当と思われる。このような保健医療が全体社会の中で展開されることを考慮して、以下のような枠組みが提示出来る。これは福祉にも適用出来ると思われる。

 A.自然的・社会的条件:

    1. 国土、気候、人口(静態・動態)等
    2. 歴史、経済、産業、財政、政治、行政、法律、宗教、教育、文化

 B.保健医療構成要素

    1. 健康・傷病構造
    2. 保健医療の科学・技術
    3. 保健医療供給制度
    4. 保健医療従事者の教育・養成
    5. 保健医療経済
    6. 保健医療関連産業
    7. 保健医療法制
    8. 保健医療の政治・行政
    9. 保健医療の文化・思想・倫理

10.保健医療改革運動

 

                   

 1例えば、保健・医療社会学研究会編「保健・医療社会学の課題」

『保健・医療社会学の成果と課題』pp401