後期高齢者における転倒・転落事故の日常生活への影響

 

 ◯浅川康吉(東京都老人総合研究所) 高橋龍太郎(東京都老人総合研究所)

 

 

 【目的】

 転倒・転落事故は併発症として打撲や骨折を生じさせるだけでなく、生活のさまざまな側面に影響を与えると思われる。特に、75歳以上の後期高齢者では、加齢にともなう身体機能の低下や健康問題の増加と相まって、その影響はより深刻になると考えられる。本研究の目的は、後期高齢期に生じた転倒・転落事故がその後の生活に与える影響について明らかにすることである。

 

 【対象および方法】

 都内某区域において平成9年9月1日から平成10年8月31日の間に救急要請があった高齢者の転倒・転落事故525件の搬送患者に対し郵送による訪問調査の依頼を行った。応諾を得た69名のうち転倒・転落事故の時点で75歳以上であった後期高齢者42名(男性10名、女性32名)を本研究の対象とした。

 訪問調査は1名の調査員が3ヶ月にわたり行い、転倒・転落事故の影響として、歩行機能、外出意欲、環境改善、転倒に対する不安の四点に関する聞き取りを行った。歩行機能については、歩行の衰えを感じているか否か、外出意欲については、外出意欲が衰えたと思うか否か、を尋ねた。環境改善に関しては、手すりや段差の解消など事故後の対処の有無と日常生活における注意の有無を尋ねた。転倒に対する不安は100mmの線分を提示し、「まったく不安はない」を100、「大いに不安」を0とするVisual Analogue Scale(VAS)に自己記入されたものを0〜100の値に得点化して評価した。なお、聞き取りは原則として本人に対して行ったが、痴呆症状のあった7例については、外出意欲と転倒に対する不安の設問を除いて、同居の親族による代理回答を認めた。

 

 【結果】

 歩行機能の衰えは21名(50.0%)、外出意欲の衰えは11名(26.2%)で認められた。環境改善については、手すりなどの具体的対処がみられたのは9名(21.4%)、日常生活において「特に注意していない」と回答したのが22名(52.4%)であった。転倒に対する不安の得点分布は、70〜89(11名、26.2%)と30〜39(6名、14.3%)のふたつのピークに別れた。

 

 【考察】

 後期高齢期における転倒・転落事故は、歩行機能の低下や外出意欲の減退など生活に好ましくない影響を与えるが、手すりの設置や段差の解消など具体的対処を行うことは必ずしも多くはなく、約半数は事故の再発に関して特に注意もしていないことが判明した。また、転倒に対する不安は、あまり不安の強くない群(70以上)とかなり不安を抱いている群(39以下)に二極化する傾向がみられた。