高齢者におけるソーシャル・サポート授受と主観的幸福感

日本と韓国における調査結果より

 

甲斐一郎(東京大・医・健康科学)

 

 ソーシャル・サポート(以下、サポートと省略)が高齢者の心身の健康の保持にとって重要な意味を持つことは、すでに内外の多くの研究によって明らかにされている。しかし、従来のサポート研究では、高齢者はもっぱらサポートを受ける、いわば社会的弱者としてとらえられており、高齢者が回りの人々(配偶者、子供、友人)に対してサポートを提供するという側面の重要性が検討されてこなかった。

 演者らは、日本と韓国の農村在宅高齢者を対象にして、高齢者のサポート授受(提供と受領の両者)と、主観的幸福感の一指標であるモラールとの関連について調査をおこなった。作業仮説としては、(1)高齢者からのサポート提供が、高齢者のサポート受領と同程度ないしはそれ以上に、モラールを高める要因であること、(2)サポート授受のバランス、すなわち、サポートを他人へ提供し同時に他人からもらうことがモラールの維持に重要であること、を考えた。

調査の結果、韓国においてはサポート提供のポジティブな効果が観察され、作業仮説がほぼ実証された(金恵京ら: 日公衛誌 43(1):37-49, 1996)。一方、日本においてはサポート受領のネガティブな効果が観察され、従来のサポート研究で強調されてきた、サポート受領が主観的幸福感に与えるポジティブな効果とは逆の結果となった。高齢者がサポートをもらうことの意味が両国でことなっている可能性が示唆される。