老化の学際的・縦断的研究

 

東京都老人総合研究所副所長

柴田 博

 

  1. 学際的研究の必要性
  2.  老化を促進させたり遅らせたりする要因は社会学的・心理学的・医学的等のさまざまな領域にまたがっている。また、老化は個人・家族・社会に影響を与え、個人のうちでは心にも体にも変化が起る。

  3. 縦断的研究の必要性
  4.  横断的研究から作られる老化のモデルには、出生コホートの影響(birth-cohort effect)が加わる。新しい出生コホートで大きくなる変数、たとえば身長とか知能検査で測定される知能などの場合、横断研究のモデルは真の老化よりも誇大に表現することになる。逆に、新しい出生コホートで小さくなるような変数、たとえば運動量などの場合、横断研究は真の老化を過小評価してしまう。

  5. 疾病の疫学と老化の縦断研究の違い
  6.  疾病の疫学研究の場合、ベースラインの要因の測定は1回で良く、あとは目的とする疾病(end points)を観察するのみで良い。ベースラインを複数回くり返し、その平均や変動をベースラインの変数とすることもあるが本質は変らない。老化の縦断研究では老化の変数は普遍的であり、またその変化を観察しなければならないので、ベースラインと同じ精度でくり返し測定されなければならない。

  7. 老化の縦断研究に必要な条件

  1. 追跡対象(パネル)の代表性
  2. アメリカのDuke大学の研究やアメリカ国立老化研究所の研究にはこれがない。

  3. 追跡の徹底性
  4. ベースラインの対象の高い追跡率が保証されないと縦断研究は意味をなさなくなる。招待して調査する方法による脱落群(とくに死亡以外の脱落)を考慮しないでつくる老化のモデルには妥当性がない。

  5. 観察期間内の測度の妥当性と測定精度の管理が必要である。
  6. 縦断的観察計画における介入効果や訓練効果を小さくする工夫が必要である。
  7. 逆に、可変的変数の解釈や老化制御のためのガイドラインづくりには介入研究が必要となる。

  1. 縦断研究を補完するもの

 縦断研究には出生コホートの影響からは自由であるが、時代の影響(period effect)や介入効果が加わってくる。真の老化のモデルをつくるためには時代の影響を知るための定点観察(time-sequential cross-sectional studyとかtime-lag observationとかよぶ)が必要である。