公的介護保険とケアマネジメント

                       白澤政和(大阪市立大学 生活科学部)

 

 

1.介護保険とケアマネジメントの関係

 介護保険とケアマネジメントは一心同体のように考えられているが、全く基本的な原理が異なるものである。介護保険は、社会的連帯でもって国民の介護問題を解決していくことを目的にしており、ケアマネジメントは諸種の生活課題(ニーズ)を解決することで要援護者の地域生活を可能にし、自立を支援することである。このことは、ドイツでは介護保険がありケアマネジメントが制度として存在していないこと、他方イギリス、カナダ、オーストラリアでは介護保険は存在しないが、ケアマネジメントが制度化されていることをみれば、歴然としている。結果として、日本の介護保険制度は、ドイツの介護保険制度と英国系のケアマネジメントの仕組みを接ぎ木していることになる。

 

2.介護保険下でのケアマネジメントの展開

 ここで、介護保険のもとでケアマネジメントがどのように展開するかを示してみる。保険者が設置する介護認定審査会から要介護認定を得た要介護・支援者に対して、希望があれば、介護支援事業者の介護支援専門員(ケアマネジャー)が高齢者アセスメント票に基づいて、ケアマネジメントを実施する。ここでは、要介護・支援者と一緒に生活課題(ニーズ)を抽出し、ニーズに合致した社会資源と結びつくよう調整することになる。この際にケアプラン原案に示された保健・医療・福祉のサービス事業者を集めて情報の共有化を主目的とするサービス担当者会議(ケアカンファレンス)がもたれることになる。また、介護支援専門員は定期的に家庭訪問して、要介護度の変化をモニターすると同時に、要介護・支援者のニーズの変化に合わせて、ケアプランの変更を継続していく。

 しかしながら、現実には介護支援専門員間での競争原理が作用し、介護支援専門員が要介護・支援者となりそうな人を発見し、要介護認定の代理申請をし、同時にケアプランを作成・実施していくことが、一般的なサービス利用方法になる。こうしたことが可能となるよう、介護保険法では、介護保険サービスの利用は要介護認定申請日に遡って利用できることとしている。

 現実的には、介護支援専門員が「核」となり、介護保険サービス利用が展開していくことになる。そのため、介護支援専門員は、介護保険を良くも悪くもする立場にある。以下では、介護支援事業者や介護支援専門員を導入することのメリットとデメリットを整理し、後者についてはその解決方法を明示してみる。

 

3.介護保険へのケアマネジメント導入のメリット

 @介護保険は措置から契約への転換であるが、介護支援専門員は従来の待ちの姿勢での申請受付から、ケース発見をし、サービスと結びつけていくといった積極的な観点が導入され、利用者のサービス利用が促進される可能性が高い。

 A従来の措置制度にあっては、利用者は行政処分としてサービスをあてがわれてきたが、介護支援専門員は利用者の自立(自己選択)を支援することであり、自らの責任で望むサービスを選ぶことができるようになる。

 B介護保険では居宅介護支援事業者の介護支援専門員が介護保険該当サービスを一元的に提供できる権限を利用者と一緒に有することになり、従来のような保健・医療・福祉での縦割りの相談窓口に赴いてのサービス申請はなくなることになる。ここに、シングルゲート・アプローチが可能となる。

4.介護保険へのケアマネジメント導入でのデメリットとその解決方法

 @居宅介護支援事業者は介護保険該当サービスの提供機関でもあり、利用者の自己選択を支援できる中立性が確保できるかどうかの課題を有している。この課題解決のためには、個々の介護支援事業者についての保険者等の情報開示と介護支援専門員のサービス内容に関する第3者機関による評価の導入が不可欠である。同時に、利用者も消費者意識を確立し、質の高い介護支援専門員を選択することが求められる。

A多種多様な専門職が介護支援専門員になることができ、また大量の介護支援専門員を必要としていることから、粗製濫造のきらいが大きく、いかに専門性を確保し、利用者に選ばれる有能な介護支援専門員を育成するかの課題を有している。そのためには、実務研修を越えての習熟研修が継続的に必要不可欠である。

 B介護保険開始時では、サービスが不足し、作成されたケアプランが実行できないことが予測される。そのため、早急に各保険者は量的・質的な両レベルで介護保険サービスを高めていくことが不可欠である。さもなければ、作成されたケアプランが絵に描いた餅に終わってしまうことになり、介護支援専門員の資質よりも、サービスを確保している介護支援専門員が、利用者に選ばれる大きな要因となってしまう可能性がある。

 

5.まとめ−保健・医療・福祉サービスの連携に向けて

 介護保険は市場原理をもとに、利用者が選択することで、サービス事業者や介護支援専門員間の競争をもとにして、量的・質的に高いサービスを作り出していこうとするものである。だ、こうした競争原理のみが正当化され実施されるとなれば、当事者である要介護・援護者の主体が確保できず、サービス事業者から取り合いされることにもなりかねない。そのため、競争原理の基礎にサービス事業者や居宅介護支援事業者間での協働原理を創設していくことが求められる。そのことは保険者の一方の顔でもある市町村が、その中心的責務を果たしていかなければならない。具体的には、地域での高齢者サービス調整チーム等の活性化も含め、地域のネットワーク作りが従来に増して必要になるといえる。