公的介護保険制度の導入と保健医療社会学の課題

 

園田恭一(東洋大学社会学部)

 

公的介護保険サービスの実施をめぐっては、従前は介護施策の提供者であった行政が、今度は保険者となって、需要者や利用者と供給者や提供者との間に介在するようになるということで、保健・医療・看護・福祉、とりわけ地域保健・医療・看護・福祉の動向や枠組みに、多大な影響と変化を生むことになることが予測されている。

本報告では、これらの変化と関わる保健医療社会学の課題を、介護サービスの需要者や利用者と、提供者や供給者の双方、そして両者の相互の関係から接近を試みることとしたい。

第1の課題は、サービスの需要者や利用者としての高齢者のニーズや生活の把握と関わるものである。ニーズの捉え方をめぐっては、これまでも、当人や本人が必要だとしているものを、その意識や自覚や認識の状態などの主観的世界を通して把握しようとする立場と、第三者、とりわけ専門職や行政機関などが、種々の基準や尺度を用いて、当事者がおかれている状態を、可能な限り主観を排して客観的に捉えようとする二つの立場があった。また、サービスの利用にあたっても、サービスがあることをよく知らないもの、知ってはいても福祉サービスの利用を拒むもの、さらには過少あるいは過度の利用など、種々の問題も提起されてきた。公的介護保険制度がスタートすると、これらに要介護認定や等級の判定、保険料や利用料がどのように設定されるかといったことなども、この需要や利用に関わる問題に新たに加わることとなる。

第2の課題は、サービスの供給者や提供者をめぐっての問題がある。公的介護保険の導入にあたっては、営利企業にも事業者として都道府県の認定が得られれば参入を認めるということで一段と関心を集めている。この事業に民間業者がどの程度参入するか、あるいは、社会福祉法人や公社・公団・事業団、社会福祉協議会、生協、農協などがどのような対応を示すかなどの条件や要因の分析などが、それらのサービスの量や質の評価の基準や尺度の形成と合わせて、重要な課題となってくるであろう。また、提供者や供給者間の役割分担や連携、あるいはチームワークのあり方などの解明や解決が、組織論や専門職論などと関わって、社会学からの貢献が期待されている分野の一つとなるといえよう。

第3には、需要者や利用者と提供者や供給者との相互関係の分析が重要なものとなるであろう。それは、これら介護サービスは、供給者側からの一方的なものとなってはならず、あくまでも需要者や利用者側との双方的な関係となることが大切であるし、またそれが利用者の満足度やQOLなどを高めるものとなるからでもある。さらにはまた、この介護保険は、その要介護や度合いの判定をめぐって、「ねたきり」や「痴呆」状態にあるとか、重いと判定されたいというインセンティブが生じたり、依存性を強めるのではないかとの批判もある中で、介護はあくまでもそれぞれの自立の助長や回復にあるという基本線をどこまで達成し、実現することができるかということも、それらの究極的な評価をめぐって問われることとなるであろう。