シンポジウム

「保健・医療・福祉における比較文化研究」の趣旨

 

                       座長 姉崎 正平(日本大学)

杉澤 秀博(東京都老人総合研究所)

 

 保健医療福祉における比較文化研究、国際比較研究はいろいろな動機や目的、様々な条件の下で行われてきた。研究手法もそれらに規制されて多様である。第二次大戦終了後の日本に限ってみると、まず、先進諸国の保健医療福祉政策・制度を模範として紹介することが行われてきた。米国、英国、欧州、旧ソ連などの社会主義国諸国の保健医療福祉政策・制度の部分や全体について視察や文献を基にした紹介的研究であった。最近でも介護制度や介護保険についてデンマークやドイツへの視察 と紹介が盛んに行われたのはこの例である。

 次いで、日本の経済成長により、海外協力が行われるようになり、開発途上国に対する先進国の技術やシステムの移転を促すため、発展途上国の保健医療に関する情報が集められ、研究されるようになった。これら2つの場合は、比較的実用指向で、概して巨視的研究である。

 これらに対し、外国の地域住民に対する面接調査、観察などに基づき、保健医療福祉に関わる文化、意識、行動を研究の対象とする比較的微視的な国際比較研究も行われている。開発途上国を対象に、地域の気候、風土に根づいた意識や行動を調べ上げた研究が行われてきており、最近では、大量観察に基づいて、社会学や心理学に基礎をおいた分析モデルが、社会文化的な背景の異なる地域や国でも同じように現象を有効に説明しうるか、その普遍性の検討を目的とした研究が行われるようになった。

 このように様々に国際比較研究が行われているが、その目的、意義、方法については十分な議論がなされていない。重要な検討課題をざっとあげてみただけでも、制度・政策の比較に関連しては、現在の日本において保健医療福祉のモデルを外国に求めることができるのか、模範にするにしても伝統、文化が異なる地域に他の地域のシステムを導入することが可能か、微視的な比較にしても、保健医療福祉という実践的指向のある領域で、分析モデルの普遍性を求める研究の意義をどのようにみるのか、文化的な背景の異なる地域間で比較のための物差しをどのように作成するのか、国や地域で違いがみられたとしてもその違いの原因をどこに求めることができるのかなどが指摘できる。

 シンポジウムの時間的制約から、シンポジストで取り上げる検討の対象、比較の国の数を限らざるを得ないが、座長は姉崎正平(日本大学)と杉澤秀博(東京都老人総合研究所)とが務め、国際比較研究の枠組みを座長を兼ねて、姉崎が提示し、日米比較を秋山弘子(東京大学)、フィンランドと日本の比較を和気純子(東京都立大学)、日韓比較を甲斐一郎(東京大学)の各氏、日中比較を座長を兼ねる杉澤が担当する予定である。

(文責:姉崎正平、杉澤秀博)