アメリカ合衆国のジェロントロジー教育

 

高橋亮(東京都老人総合研究所)

 

<はじめに>

 日本では、老年医学の教育は若干提供されているが老年学の教育課程は未だ存在していない。政府においても今日のヒューマンサービスに関わる専門家の養成課程には老年学のもつ学際的研究プログラムが必要であることを認識している。米国の老年学大学教育は、1965年のthe Older American Act通過後に始まり、1998年時点で500以上の大学教育機関で、1,000以上のプログラムが導入されている。Association for Gerontology in Higher Education(AGHE)は、老年学を主専攻とする学部課程31,修士課程37,博士課程5を登録している。

<合衆国の老年学博士課程>

 合衆国の博士課程は、南カリフオルニア大学(1989)、マサチューセッツ・ボストン大学(1990)、南フロリダ大学(1995)、ケンタッキー大学(1997)及びキャンザス大学(1998)である。その他に、老年学を42の博士課程大学院で副専攻や老年学履修認定プログラムが存在する。1989年に南カリフォルニア大学老年学専門大学で初めて老年学博士課程が設立された。プログラム内容は、社会政策の専門領域に集中している。これらの老年学博士課程の主たる目的は、研究及び国家において一つの研究領域に留まらず政策的に様々な観点から分析判断し、新たな理解や知識を提供できる政策立案、経営管理、教育、コンサルテイング等の指導者を養成することにある。

 南フロリダ大学(1995)は加齢研究博士課程として、各研究領域で加齢に関する研究課題に取り組んでいる専門家らの学術的主張を学際的に捉え、これらを統合した形でプログラム構成がされている。教育課程の中で最も重要なことは、各専門領域に関する理論的特色や知的根拠及び社会的価値あるものを組み合わせる能力を養うことである。これは高齢化現象に関わる様々な専門領域の観点からの自由な発想のもとで老年学に対する固定概念に捕らわれないことが求められている。

<日本の老年学教育導入の期待と課題>

 日本における老年学大学教育の導入にあたっての検討課題は以下の通りである。第1に東京都老人総合研究所などの学際的な研究機関を老年学教育機構やセンターとして組み入れること。第2に老年学は、各々の地域に根ざした住民の生涯発達(Life Span Development)のニーズに対応すべき実践的学問であるという事を学会活動を通して学際領域の専門家の理解と協力を得ること。第3に、生涯にわたる高齢化の過程を検討する際には知的障害や身体障害を含む各々の障害に基づく高齢化の検討を含むこと。最後に、研究・教育に加えて、各地域の住民の真の幸福に基づく情報提供やサービスを行う機関を支援し得る地域に根ざした実践的学問であることである。

1)高橋亮:高齢者福祉教育カリキュラムの再検討ーアメリカ、日本の教育カリキュラムを中心に・草の根福祉, 24:1-17(1996).

2)高橋亮:高齢者のQOLを考える・臨床老年看護, 6(1):142-144(1999).