日本とフィンランドの高齢者に関わる国際共同研究の課題と方法

 

和気純子(東京都立大学)

 

【目的】

 本研究は、日本政府とフィンランド政府の合意によって開始された、日本とフィンランドにおける保健福祉の国際比較研究プロジェクトの一つであり、日本社会事業大学が国立トルク大学をカウンターパートとして、平成5年度より3年間にわたって取り組んだものである(研究主査:村川浩一・日本社会事業大学教授)。本研究の他に、@地域保健福祉システムの国際比較研究(トルク市−広島県御調町)、A歯科保健に関する国際比較研究(トルク市−日本歯科大学)、B乳ガン検診に関する国際比較研究(トルク市−厚生省厚生科学課他)の3つの研究プロジェクトも同時平行して行われたが、本研究プロジェクトは、とりわけ@地域保健福祉システムの国際比較研究(トルク市−広島県御調町)とは、情報交換を含めて密接な連携のもとに進められた。

 これまで、福祉国家として知られる北欧諸国については、その先進的な高齢者ケア・システムをわが国が一方的に紹介することはあっても、先進的なシステムによって影響を受ける高齢者の生活や意識に関する実態については、ほとんど知られていないのが実状である。さらに、近年は、インフォーマル・ケアの重要性やプライバタリゼーションの必要性が叫ばれ、福祉国家のあり方をめぐっても新たな論議が生まれている。本研究プロジェクトは、このような背景のもとで、両国の歴史、風土、文化を視野に入れながら、高齢者ケア・システムの相違のみならず、それが高齢者の生活や意識にもたらす影響についても検討することを目的とした。

【方法】

 本研究プロジェクトでは、上記の目的にそって下記の2つの研究課題を設定した。

(1)日本とフィンランドにおける高齢者ケアシステムの比較分析

(2)日本とフィンランドの高齢者の生活と意識に関する比較調査研究

 また、(2)については、比較的健康な一般高齢者から、何らかの保健福祉サービスを利用している虚弱・要介護高齢者までを幅広く対象とし、両国の高齢者の生活と意識を包括的に把握するために、2つの調査研究が実施された。第1は、一般の高齢者約1000人を対象とし、郵送調査によって高齢者の家族、地域社会、保健福祉サービスへの意識や態度を比較・検討する調査研究である。調査対象地域は、鎌倉市、広島県御調町、フィンランド・トルク市である。第2は、何らかの保健福祉サービスを利用している虚弱・要介護高齢者約100名を対象とし、専門職による訪問面接調査によって、虚弱・要介護高齢の介護の状況や社会的支援、さらに保健福祉サービスに対する利用意識を把握する調査研究である。調査対象地域は、鎌倉市およびフィンランド・トルク市である。調査対象地域の選定にあたっては、人口規模や高齢化率をはじめ、歴史文化都市という点でトルク市と類似している鎌倉市が選ばれたほか、保健福祉ケアシステムの厳密な地域比較を研究目的とする上記@のプロジェクトの成果を生かすために、広島県御調町が加えられた。

【結果と考察】

 本報告では、発表者が主に関わった虚弱・要介護高齢者への調査研究を中心に考察を加える。トルク市と鎌倉市は、一般的な地域特性という点では類似しているものの、保健福祉システムには大きな相違があり、とりわけ、高齢者保健福祉予算の規模や在宅ケアを支えるマンパワーやサービスの利用率には大きな格差がみられた。また、調査対象者の年齢、性別、ADLのレベルには有意差がみられないものの、手段的ソーシャルサポートや保健福祉サービスの利用希望などにおいて大きな差異が認められた。こうした差異の背景には、老親扶養をめぐる意識や居住形態の相違はもとより、公的な保健福祉サービスの普及率や供給体制などのシステム要因が存在しているものと考えられる。