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医療健康コラム

「ブレインバンク」をご存知ですか?

2023年11月14日
老年病理学研究チーム(神経病理学)研究部長/高齢者バイオリソースセンター部長兼務 齊藤祐子
齊藤祐子先生
老年病理学研究チーム(神経病理学)研究部長/
高齢者バイオリソースセンター部長兼務
齊藤 祐子(さいとう ゆうこ)

「ブレインバンク」の活動は当センターで20年あまりにわたり、患者様や御家族、センター内スタッフ等、皆様に支えられて行っている事業です。今回改めて、関係者に紹介記事を読んでいただけることに感謝しております。「ブレインバンク」とは耳慣れない言葉かと思いますので、その意義・目的や活動内容について記したいと思います。

ブレインバンクとは?

ヒト脳疾患の最終診断は未だにその多くは脳組織の病理診断が不可欠です。つまり亡くなられた後の病理解剖よって確定診断がなされるということです。精神疾患や発達障害は、その診断は脳の病理ではわかりませんが、その病態を解明するためには、ヒト脳を調べなければ、より良い創薬に結び付けることは出来ません。欧米では約40年ほど日本に先立ってブレインバンクの創設と活用が国家事業としてなされてきました。欧米の特徴は、生前からのドナー登録が盛んで、宗教的な背景も関係しているのかもしれませんが、「Gift of Hope運動」つまり、「希望の贈り物運動」と名付けられ、後世において、脳の病気に苦しむ患者さんに希望という素晴らしい贈り物をするという「祈り」が込められた活動です。

国際的にみたブレインバンク創設への背景

日本が出遅れた理由としては、そのような活動に対して、公的な研究費を受けにくかったことがあります。ですから日本の研究者は欧米のブレインバンクに研究の試料提供を依頼していました。しかし、研究結果について人種差は無視出来ませんし、知的財産や費用の問題もありました。そこで日本でのブレインバンク設立の気運が高まってきたのが、2000年前後です。

「高齢者ブレインバンク」の誕生

当センターでは、1972年の開院・開所当初から、病理解剖については、剖検率の高さについては日本で1,2位を誇ってきたという歴史がありました。これは一重に医師と患者様の信頼関係に基づくものと思います。そのような背景で、東京都や国からのバックアップもあり、2000年から、病理解剖の承諾の際に、通常の病理学的な診断を行った後に、脳の組織の一部を凍結保存し、診断後のパラフィンブロックなどと共に、それらの一部を研究者に提供して、共同研究を行うという倫理委員会の承認を得ました。そのようにして、前任者の村山繁雄部長が1999年に赴任後、約2年余りの準備期間を経て、本格的に「高齢者ブレインバンク」として、センター内のみならず、他の研究機関との共同研究が始まりました。老化や認知症研究を行っている研究者からは多くの共同研究依頼があり、これまで多くの研究成果が出ています。2007年には石原知事から東京都都知事賞を頂きました。

高齢者ブレインバンクの特徴

1.献脳ドナー登録者の支え
ブレインバンク01

当バンクの大きな強みのひとつが、「献脳ドナー登録システム」です。こちらはホームページを御覧いただけましたら幸いです。

ちなみにドナーの第一号は元病院長(旧老人医療センター)で、筆者の前任者の恩師です。登録者は順調に増えています(図)。患者様や、そのご家族、医療関係者など、病気を持つ方のみならず、脳には特に病気を持たれない方のドナーがおられることで、国際的にも類をみない特徴があります。当然研究には、病気の方、病理で調べたら、その途上にあった方、全く問題の無い方のデータを比べることが必須だからです。

2.病院と研究所の連携

お一人お一人の病気の症状や変化、脳脊髄液検査,MRI,SPECT,PETなどの画像所見と病理との比較をし、解析することです。臨床や病理の診断は難しいことが少なくなく、これらの解析結果が、現在外来にかかっておられる方々に直接役に立っております。

3.一般病理所見の対応

国際的にも病理専門医の診断がしっかりつけられた病理解剖例が試料と共に保管されているブレインバンクはありません。神経は中枢(脳・脊髄)のみならず、心臓をはじめとする一般臓器にも末梢自律神経系として全身に存在します。たとえば有名なパーキンソン病やレビー小体型認知症は、様々な自律神経障害を起こし、病気の進行を早めることは知られています。その病態解明が出来るのも本ブレインバンクの強みです。

4.きめ細かさと危機管理体制

手前みそになりますが、本邦における神経病理の診断や保存方法は大変きめ細かく、凍結組織を保存してある場所の危機管理システムも万全です。国際的には後発ですが、現在では、逆に欧米の研究者からの依頼による共同研究が進んでおり、研究のレベルも向上してきております。

おわりに

ブレインバンク02

ドナー登録者や、亡くなられた御遺族から、有難いお言葉を頂いておりまして、その感謝の言葉が我々の草の根運動の力になっております。そのお言葉の一部を紹介し、結びとさせていただきます。

「自分のこの『病気の脳』が役に立つのですか?知りませんでした。是非登録させてください。」/「パーキンソン病をわずらっていた父の介護にほとんど関わることができませんでした。せめて献脳してパーキンソン病の克服に役に立ちたいです」/「家系を苦しめたこの病気をなんとかしてほしいです。自分はたまたま免れました。献脳を希望します」/「病理解剖してくださってありがとうございます。父(母)も喜んでいると思います。」/「今回初めて病名が判明し、安堵いたしました。闘病生活のあれこれを思い出し今にして納得する事の数々、胸のつかえもすとんと落ちました。

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