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医療健康コラム

なぜ「とろみ」をつけるの?増粘剤を使用する理由

2025年09月16日
リハビリテーション科 部長 兼 センター長特任補佐 近藤和泉
近藤和泉先生
リハビリテーション科 部長 兼 センター長特任補佐
近藤 和泉(こんどう いずみ)

7月からリハビリテーション科に着任した近藤です。リハビリテーション科では、物を飲み込むこと(嚥下)に対するリハビリや研究を熱心に行っており、それに関連して今回は、嚥下に問題があるお年寄りがお飲みになる汁物や水分に、なぜ「とろみ」をつけるのかについて、考えてみたいと思います。

のどは人間の弱点?

のどの奥は、縦に長い管の様な構造になっています(図1, 2)。縦に長い理由は、人間が他の動物と違って声を出す動物であり、この笛の胴に似た部分で音を共鳴させて、様々な種類の声を出すためとも言われています。これで話をすることが容易になったのですが、この部分が長いため、飲み込んだ食べ物が通る時に誤って、呼吸をするための管(気管)に入ってしまうことが起こりやすくなります(図3)。このことを「誤嚥」と言います。

のどの構造01図1 のどの奥の構造
のどの構造02図2 食べ物と呼吸時の空気の通り道
のどの構造03図3 誤嚥

誤嚥しないために必要なことは?

1) 食べ物が間違って入ってしまったことを検知する感覚
まず大事なのは、のどや口の感覚です。のどの奥の感覚は、口の中の感覚とは異なります。口の中では食べ物がどこにあるのかわかります。これは「位置を知るための感覚」です。のどの奥では、食べ物がどこにあるかはわかりません。ただし食べ物がどのくらい入っているかと、呼吸をじゃまするような場所に食べ物が入っているかどうかを知ることはできます。食べ物がいっぱい入りすぎて息ができなくなったり、呼吸をする管に食べ物が入ってつまってしまったら、危険ですよね? このため、のどの奥の感覚は「危険を検知するための感覚」です。

2) 危険を検知して、むせるように指令する中枢
脳の根本の首に近い部分に延髄という神経がたくさん集まった場所があります。のどの奥の危険を知らせる感覚はここに伝えられます。ここから指令が出て、肺の周りにある筋肉を強く勢いよく収縮させ、肺から空気を押し出して、強い空気の流れを作ります。この空気の圧で、間違った場所に入ったり、つまってしまった食べ物が押し出されます。この強い空気の流れを作る動作が「むせ」です。

最も危険なのは? →「むせ」がないままに気管に食べ物が入ってしまうこと

高齢になるとのどの奥の感覚が徐々に鈍くなってきます。一見何もないようなお年寄りを病院で検査している時、のどの奥にたくさん食べ物がたまっているので「今食べたものを全部飲みましたか?」と聞くと「ちゃんと飲んだ」と答える方が、たくさんおられます。また脳卒中などの脳の障害の初期では、延髄を含めた脳全体の機能が落ちているため、気管に食べ物が入っても全くむせない時があります。むせることができないと、間違って気管に入ってしまった食べ物を押し出すことができず、肺炎を起こす原因となります。

水分と、のどで食べ物を通過させる速度

水分は、他の食べ物に比べて、のどの奥を通過する速度が速いことがわかっています。水は飲み込みやすいというイメージがあるため意外かもしれませんが、飲み込むことが最も難しいのは水分なのです。誤嚥で一番多いのも水分の誤嚥であり、他の食べ物に比べるとその頻度は圧倒的です。一方、年を取ると筋肉や神経の衰えで、のどで食べ物を通過させる速度が遅くなってくることが、最近の新しいCTを使った研究で、わかって来ました(図4)。

のどの構造04図4 年齢による嚥下速度の違い

水分誤嚥と「とろみ」をつける意味

外から見ると何も問題がないように見えるお年寄りに検査を行うと、水分を誤嚥している方がおられます。
「とろみ(専門用語で「増粘剤」と言います)」をお茶や、汁物に溶かしていただくと、のどの奥を通過する速度が遅くなり、高齢者でのどの機能が衰えていても、それで対応出来るようになります。家庭でよく「むせ」たり、「むせ」が無くても、肺炎を繰り返すお年寄りの場合は、水分誤嚥の可能性があります。検査しないと水分誤嚥が起こっていることがわからない場合がありますので、専門の医療機関に相談していただけると安心ですね。

のどの構造05
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