2026.06.10
プレスリリース
自立促進と精神保健研究チーム
読経を用いた健康プログラムの健康効果のエビデンスの国際発信

研究のポイント

  • 寺院において読経を活用した健康プログラムを実施した結果、精神的ウェルビーイングの改善がみられた。
  • 良い意味がある非日常語であるお経を、息を長く使い大きな声でお唱えすることで、嚥下機能や呼吸機能の改善がみられた。文化のなかで親しまれてきた寺院における実践が、高
  • 齢期の心身の健康に役立つことが期待できる。

研究の背景

高齢者の肺炎の7割以上が誤嚥性肺炎と言われ、誤嚥性肺炎は高齢者における主要な死亡原因です。これを予防するための口腔機能や嚥下機能を支援する介入プログラムが広く行われています。
特に、文化的に高齢者に親しみのある要素を用いたプログラムは、受け入れやすく、続けやすいという強みがあります。そこで東京都健康長寿医療センター 自立促進と精神保健研究チームの枝広あや子らは大正大学等と連携し、読経を用いた健康プログラムを開発しました。
「なぜ効くのか」については下記を参照ください。


読経を用いた健康プログラムの健康効果のエビデンス
読経の健康効果の概念図

研究目的

寺院で行う読経を用いた健康プログラムの、地域住民の嚥下機能、呼吸機能、精神的健康に及ぼす影響を明らかにする。

研究の方法

プログラムの構成

読経プログラムは週1回1時間のセッションを全7回行なう、集合型プログラムで構成されています。プログラム参加者が週に一度、顔を合わせるというスタイルです。セッションのない日は、自宅での練習をお願いしました。
今回の読経プログラムでは、比較的短い時間で唱えられ、かつ多くの宗派で使われる『般若心経』を使用しました。口腔機能の維持向上のためには"良い意味があるけど日常的に発さない語句"を一生懸命声に出すことに効果があるので、参加した方が誰でもついてこられるよう、経文を大きな文字で印刷し、ふりがなを付けたテキストを用意し、現代語訳や解説も加えて提供しました。姿勢を正しく、身体を楽器のように使い、なるべく息を長く、そして口を大きく使う唱え方を指導しました。

読経の効果を高めるため、セッションのはじめには呼吸と口腔機能に着目した準備体操を行います。歯科医師が厳選した、より深い呼吸を促す上半身のリラクゼーション、ストレッチや、口腔機能や嚥下機能に効果がある動きを実施しました。さらに毎回のセッションの中に、読経の後のインストラクター僧侶によるミニ講話と、参加者のグループワークが含まれます。

プログラムの場所

増上寺および護国寺

プログラムの対象

郵便局のチラシ等で集めた地域住民44名
チラシには布教を行なわないこと、誰でも参加可能なことを明記した。

分析方法

プログラム前後に測定された数値を、反復測定混合効果モデル(mixed models for repeated measures: MMRM)を用いて解析した。

研究結果

1)基本情報
参加者の平均年齢は70.3 ± 9.1歳(範囲:54~91歳)、全体の出席率は90.5%でした。

2)精神的健康への効果
WHO-5ウェルビーイング指数は介入前の15.6 ± 5.8から介入後には18.4 ± 4.8へと増加しました(F(1,43) = 17.4, p < 0.001)。精神的ウェルビーイングの改善を示しています。

3)嚥下機能への効果
嚥下時の舌骨移動量(ΔHD)は38.6 ± 6.8%から52.9 ± 7.1%へと大きく増加し(F(1,43) = 97.2, p < 0.001)、嚥下関連運動の向上を反映しています。

4)呼吸機能への効果
最大発声持続時間(MPT)が17.5 ± 6.3秒から20.2 ± 6.8秒へと有意に増加しました(F(1,43) = 13.0, p < 0.001)。1秒量(FEV₁.₀)も1.80 ± 0.50 Lから1.92 ± 0.52 Lへと有意な増加を示しました(F(1,43) = 6.46, p = 0.015)。

研究の意義

日本の座禅がルーツのひとつである「マインドフルネス」は、医学界で広く行われています。日本仏教では、坐禅と並び、読経もまた中核的な実践の一つです。これまでの研究では、読経を「聴く」ことが死別に関連するストレスを軽減する可能性が示唆されています。しかし「実際に唱える」ことの生理的・心理的効果については、定量的手法を用いた検討が十分になされていませんでした。

近年、寺ヨガや子ども食堂などの形態で社会貢献を志向する仏教寺院が現れています。先行研究では、寺院で行う介護者のための集いが地域包括ケア支援センターなどからも高く評価されていることが報告されています。このような視点に基づき、寺院で行われる伝統的実践である読経を、精神的ウェルビーイングおよび呼吸・嚥下関連機能の双方の向上を目的とした地域ベースの健康プログラムに組み込む可能性が示されたと言えます。

なお、本プログラムは、文化的に親しみのある極めて長い歴史を有する習慣の健康効果に注目したものであり、特定の宗教や宗派との利害関係はなく、布教とは一切関係ありません。

Ayako Edahiro, Chiaki Ura, Yoshiko Motohashi, Mayumi Kaneko, Chiaki Ando-Ohmura, Maki Shirobe, Misato Hayakawa, Ryosho Shoji, Reisai Kaneko, Yukan Ogawa, Akinori Takase, Tsuyoshi Okamura. Feasibility and Preliminary Effects of a Community-Based Sutra Chanting Program on Mental Well-Being and Respiratory and Swallowing Functions in Older Adults: A Pilot Study. Geriatrics and Gerontology International. Volume26, Issue6 June 2026 e70563: First published: 27 May 2026 https://doi.org/10.1111/ggi.70563(70563)

地方独立行政法人
東京都健康長寿医療センター
自立促進と精神保健研究チーム 
専門副部長 枝広あや子
電話:03-3964-3241
Email:aedahiro@tmig.or.jp
文字拡大・縮小 白黒反転表示 音声読み上げ