2026.07.01
プレスリリース
社会参加とヘルシーエイジング研究チーム
子ども時代に経済的な困難があっても、
その後の人生で困難が和らいだ高齢者は抑うつ傾向が低い
東京都健康長寿医療センター研究所・村山洋史研究部長(テーマリーダー)らの研究チームは、全国から無作為抽出された60歳以上男女1,324人を対象に、子ども期から高齢期までの経済的困難の移り変わりと、現在の抑うつ傾向との関連を調べました。その結果、子ども時代は経済的に苦しかったものの、人生の途中でそれが徐々に和らいだ人では、人生を通じて困難が続いた人に比べて抑うつ傾向が低いことが分かりました。本研究成果は、国際学術誌Journal of Epidemiologyに掲載されました。

研究のポイント

  • 子ども期、若年成人期、中年期、現在の4時点における経済的困難の度合いから、対象者の経済的困難の推移は、5つの軌跡に分類されました。
  • 「経済的困難が徐々に和らいだ群」では、「一貫して経済的困難が強かった群」よりも、抑うつ傾向が低いことが示されました。
  • この関連は、現在の所得や学歴、両親の学歴、健康状態などを考慮(統計学的調整)しても認められ、男性よりも女性で顕著でした。1782378362523

研究の背景

経済的に厳しい状況が心の健康と関連することは、これまでも知られていました。しかし従来の研究の多くは、子ども時代や現在など特定の時期の経済状況に注目するもので、経済的な困難が人生の中でどう移り変わり、健康とどう結びつくのかは、特にアジア諸国では十分に検討されてきませんでした。


研究成果の概要

本研究では、2012年に実施された「長寿社会における中高年者の暮らし方の調査」*1に回答した60~92歳の1,324人を分析しました。対象者は、層化二段無作為抽出法にて全国から無作為に選ばれています。対象者には、「18歳以下」「25~35歳」「35~50歳」「現在(調査時点)」の4つの時期について、生活必需品への支出の困難さなどから、それぞれの時期の経済状況を評価しました。グループベース混合モデル(子ども時代から現在までの経済状況の変化が似ている人々を、データに基づいて分類する統計手法)を用いたところ、経済的困難の推移は次の5つの軌跡に分かれました(図1):「一貫して経済的困難が小さい群」(22.1%)、「経済的困難が徐々に和らいだ群」(21.7%)、「経済的困難が中程度で推移した群」(28.0%)、「経済的困難が徐々に強まった群」(11.3%)、「一貫して経済的困難が強い群」(17.0%)。
「経済的困難が徐々に和らいだ群」では、「一貫して経済的困難が強かった群」に比べ、現在の所得や学歴、健康状態、両親の学歴等を調整しても、抑うつ傾向がみられる人が少ないという関連が示されました(オッズ比 [95%信頼区間]=0.60 [0.36–0.98];図2)。この関連は、男性よりも女性でより顕著でした。

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研究の意義

子ども時代の経済状況は、その後の成長発達や健康にとって重要です。しかし本研究の結果は、子ども時代の経済的な困難だけで高齢期の心の健康が決まるわけではなく、その後の人生で困難から徐々に抜け出していく経験が、高齢期の抑うつ傾向の少なさに関わる可能性を示しています。子ども時代の貧困や経済的困難を防ぐことに加え、教育、職業訓練、就労、再就職、社会保障などを通じて、人生の途中からでも経済的困難を和らげられる社会をつくることが、高齢期の心の健康にもつながると考えられます。人生の出発点は変えられなくても、その後に経済的困難から抜け出せる機会は、社会の支援によって広げることができます。

掲載情報

Murayama H, Kobayashi E, Sugisawa H, Shaw BA, Liang J. Trajectories of life course financial disadvantage and depressive mood: Results from the National Survey of the Japanese Elderly. Journal of Epidemiology, 2026;36(4):132–139.(生涯にわたる経済的不利の軌跡と抑うつとの関連:全国高齢者調査からの結果) https://www.jstage.jst.go.jp/article/jea/36/4/36_JE20250159/_article




 *1 「長寿社会における中高年者の暮らし方の調査

1986年に、東京都老人総合研究所(当時)が中心となり、米国ミシガン大学との共同研究として開始しました。全国の60歳以上の方を対象とした面接調査を行い、高齢期の生活を様々な側面から調べています。2012年調査は第8回調査にあたり、これまでの継続対象者に加え、新たに抽出した対象者への調査も行いました。本研究では、新規対象者のデータを用いました。


 

お問い合わせ

地方独立行政法人
東京都健康長寿医療センター
社会参加とヘルシーエイジング
研究チーム 
研究部長(テーマリーダー)
村山洋史
電話:03-3964-3241
Email:murayama@tmig.or.jp
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