- HOME
- プレスリリース
- 加齢に伴う糖鎖変化を臓器横断的に解明 -老化関連糖鎖変化とリソソーム酵素との関連を示唆-
-老化関連糖鎖変化とリソソーム酵素との関連を示唆-
発表のポイント
老化機構研究チームの赤阪啓子研究員、萬谷博研究部長らは、名古屋大学・糖鎖生命コア研究所の花松久寿特任講師、古川潤一特任教授らと共同で、マウス複数臓器における加齢に伴うN型糖鎖変化を解析しました。本研究成果はNature Portfolio傘下のオープンアクセス専門誌 「npj Aging」 に掲載されました。- マウスにおけるN型糖鎖の加齢変化を臓器横断的に解析しました
- 加齢に伴い、短鎖N型糖鎖(パウチマンノース型糖鎖)*1など特定の糖鎖群が複数の臓器に共通して増加することを発見しました
- パウチマンノース型糖鎖の増加とリソソーム酵素*2との関連が示唆されました
- 老化モデルマウス(α-Klothoマウス*3)において老化様の組織変化に伴うパウチマンノース型糖鎖の増加が確認され、この糖鎖が生物学的老化の共通する指標である可能性が示されました
- ヒト肺由来培養細胞を用いた実験でも、老化細胞*4においてパウチマンノース型糖鎖および関連酵素の発現変化を確認し、この変化が個体レベルだけでなく細胞レベルの双方の老化に共通することを示しました
研究内容の概要
若齢(6ヶ月齢)から老齢(24ヶ月齢)までのマウスの複数の臓器(血清、脳、肺、心臓、肝臓、骨格筋、腎臓)を用い、質量分析によるN型糖鎖の網羅的解析を行いました。各糖鎖と月齢との相関を解析することで、加齢に伴う糖鎖変化を臓器横断的に評価しました。さらに、糖鎖変化と遺伝子発現データを統合解析し、変化に関与する分子基盤を探索しました。また、老化モデルであるα-Klothoマウス*4およびヒト肺由来細胞の老化誘導モデルを用いて、加齢に伴う糖鎖変化が組織レベルおよび細胞レベルの老化でも再現されるかを検証し、その分子機構について解析しました。
研究の目的
糖鎖修飾は翻訳後修飾の一つであり、タンパク質に糖鎖が付加されます。付加された糖鎖は、タンパク質の安定性の制御をはじめ、細胞間の相互作用、細胞内輸送、免疫応答など、さまざまな生命現象において重要な役割を果たしています。特にアスパラギンに付加される「N型糖鎖」
は、多くの分泌タンパク質や膜タンパク質に存在し、生体恒常性維持に深く関与しています。
近年の社会の高齢化に伴い、加齢や加齢関連疾患に伴う糖鎖変化への関心が高まっています。糖鎖解析技術の向上により糖鎖変化の検出が可能となってきましたが、これまでの研究では特定の臓器や糖鎖に着目したものに限定されており、複数臓器を横断した加齢関連糖鎖変化の全体像や、その分子機構は十分に明らかになっていませんでした。そこで本研究では、複数臓器を対象に加齢に伴うN型糖鎖変化を網羅的に解析するとともに、糖鎖変化と関連する分子群を解析することで、老化に伴う糖鎖変化の分子基盤解明を目指しました。
研究成果の概要
網羅的糖鎖解析の結果、加齢に伴いフコシル化糖鎖をはじめとする複数のN型糖鎖が変動することを明らかにしました。これらの変化には臓器特異的なものに加え、パウチマンノース型糖鎖のように複数臓器で共通して増加する糖鎖が存在しました。パウチマンノース型糖鎖は哺乳類における機能が十分に解明されていない短鎖糖鎖ですが、本研究ではその増加が月齢と強く相関することを見出しました(図1、2)。さらに、遺伝子発現との統合解析から、パウチマンノース型糖鎖の増加はリソソーム糖加水分解酵素群、とくにHEXAおよびHEXBの発現上昇と関連する可能性が示されました。また、老人肺様の病態を示すα-Klothoマウスの肺においてもパウチマンノース型糖鎖の増加が確認され、加齢に伴う組織変化との関連が支持されました。さらに、ヒト肺由来の小気道上皮細胞および肺線維芽細胞で細胞老化を誘導したところ、HEXAおよびHEXBの発現上昇とともにパウチマンノース型糖鎖の割合が増加しました。これらの結果から、パウチマンノース型糖鎖は加齢に伴う複数臓器に共通した糖鎖変化であり、その形成にはリソソーム糖加水分解酵素が関与する可能性が示されました(図1、3)。本研究は、老化に伴う糖鎖変化の分子基盤の理解を深めるとともに、パウチマンノース型糖鎖が老化の新たな指標や治療標的となる可能性を示す成果です。

研究の意義
本研究は、加齢に伴うN型糖鎖変化を複数臓器で横断的に比較した初の包括的解析であり、老化に伴う糖鎖変化の全体像の理解に貢献する成果です。本成果は、老化に伴う細胞内分解機構やリソソーム機能変化と糖鎖変化との関連を示し、老化機構の理解を前進させるものです。さらに、糖鎖変化を指標とした老化関連バイオマーカーの開発や、老化関連疾患研究への応用が期待されます。
掲載論文
論文名:Comparative organ-wide analysis of age-related N-glycan alterations in mice
reveals a link to lysosomal glycosidases
著者:赤阪-萬谷 啓子1、花松 久寿2, 横田 育子2, 岡田 和恵3, 藤田 晶大2, 古川 潤一2, 遠藤 玉夫1、萬谷 博1* (*責任著者)
1. 東京都健康長寿医療センター 研究所 老化機構研究チーム 分子機構研究
2. 名古屋大学・糖鎖生命コア研究所
3. 現所属 医化学創薬株式会社
掲載誌名:npj Aging
掲載日:2026年6月26日
DOI: 10.1038/s41514-026-00436-z
研究助成
用語解説
*1 パウチマンノース型糖鎖: タンパク質に結合するN型糖鎖のうち糖の数が少ない短鎖型糖鎖。脊椎動物の一般的な生合成過程では産生されないため存在量は少なく、その生合成経路は未解明である。*2 リソソーム酵素:リソソームに存在し、細胞内の不要物や異物の分解を担う酵素。一般的な糖鎖の生合成経路には関与しない。
*3 α-Klothoマウス:α-Klothoタンパク質の欠損により、寿命が著しく短縮し(約8週齢)、動脈硬化、肺気腫、腎障害などの老化関連疾患を呈する早期老化モデルマウス。
*4 老化細胞:分裂を停止し、炎症性物質などを分泌する状態に陥った細胞。組織の機能低下や加齢関連疾患との関連が示されている。