2026.04.21
病院
プレスリリース
レカネマブ投与患者におけるバイオマーカーの多様性を世界に先駆けて報告

発表のポイント

  • 当センターで抗アミロイドβ抗体薬レカネマブを開始した患者における、バイオマーカー [注1] の多様性を世界に先駆けて明らかにしました。
  • 通常診療で行うアミロイドPET・脳脊髄液バイオマーカーは全例で陽性でしたが、境界に近い症例も約1~2割程度存在しました。
  • また他のタウ・脳血管障害・レビー小体などのバイオマーカーは正常から異常まで症例によって様々でした。
  • 今後これらの結果を投与後の長期データとあわせて検討することで、より治療反応が良く副作用が少ない症例などを見つけられる可能性があります。

研究内容の概要

当センター 脳神経内科/認知症未来社会創造センター バイオマーカー部門の栗原正典らは、アルツハイマー病に対する抗アミロイドβ (Aβ) 抗体薬 [注2] 投与患者におけるバイオマーカーの多様性を明らかにし報告しました。

既に臨床で行われるアミロイドPETや脳脊髄液バイオマーカーにおける境界に近い結果の割合・特徴や、脳血管障害・タウ・レビー小体病などのバイオマーカーの多様性を明らかにしました。今後これらの結果を投与後の長期データとあわせて検討することで、より治療反応が良く副作用が少ない症例などを見つけられる可能性があります。

本研究成果は、2026年4月11日付で、国際学術誌 「The Journal of Prevention of Alzheimer's Disease」に掲載されました。

研究の目的

アルツハイマー病は脳へのAβ及びタウタンパク質の蓄積を特徴とし、進行すると認知症にいたる病気です。認知症の原因として最も多く、高齢化により社会的な問題となっています。特に高齢者では脳血管障害やレビー小体病 [注3] などの合併も多くみられます。Aβに対する抗体薬としてレカネマブ・ドナネマブが登場し、早期に投与すると症状の進行を緩やかにできるようになりました。しかし症例によって投与後の経過は様々であり、より深い理解が求められています。

2024年に米国アルツハイマー病協会はバイオマーカーに基づいた新たなアルツハイマー病の診断基準を発表しました。その中でアルツハイマー病における多様性を理解するのに今後重要なバイオマーカーとして、A: Aβ, T: タウ, N: 神経変性, I: 炎症, V: 脳血管障害, S: シヌクレイン (レビー小体) が提唱されました。そこで今回当センター専門外来においてレカネマブの投与を開始した患者さんにおいてこれらのバイオマーカーを検討しました。

研究成果の概要

当センターDMT外来で2023年12月から約1年間の間に評価を行い、レカネマブの投与を開始した93例を対象に検討しました。アミロイドPETを施行した例の8割は脳全体で陽性だったものの、約2割では陽性ではあるものの一部の脳領域にとどまりました。このような患者さんはやや高齢で脳血管性変化が目立つ傾向がみられました。脳脊髄液バイオマーカーを施行した症例のうち約1割はAβの値が陽性ではあるものの正常境界に近く、もう1つのバイオマーカーリン酸化タウが正常範囲の症例も存在しました。一部の症例では研究所でタウPETを行い、7段階のうち0から6まで幅広い結果を認めました。MRIで脳血管障害を一部反映する白質の変化も、4段階のうち0から3まで幅広い結果を認めました。脳脊髄液を用いてレビー小体病のバイオマーカーを測定したところ、約4分の1で陽性結果を認めました。

以上から通常診療でレカネマブを投与する患者さんはAβが陽性であるもののその程度は境界に近い症例もあり、他のバイオマーカーも多様性が大きいことが明らかとなりました。

レカネマブ投与患者におけるバイオマーカーの多様性を世界に先駆けて報告

研究の意義

本研究により、実際の臨床において抗アミロイドβ抗体薬の投与を受ける患者さんにおけるバイオマーカーの多様性が明らかとなりました。これまでの治験・研究の結果からAβやタウの異常が少ない段階で治療を開始するとより大きい効果が得られやすい可能性や、アルツハイマー病の中でもレビー小体病を合併する例は進行がやや早い可能性が報告されています。

今後これらの結果を投与後の長期データとあわせて検討することで、より治療への反応が良く副作用が少ない症例などを見つけられる可能性があります。

掲載論文

雑誌名:The Journal of Prevention of Alzheimer's Disease
論文タイトル:ATNIVS biomarker heterogeneity in real-world patients receiving lecanemab
著者:Masanori Kurihara, Ryoko Ihara, Gen Yoshii, Ryosuke Shimasaki, Keiko Hatano, Taro Bannai, Fumio Suzuki, Kenji Ishibashi, Ko Furuta, Katsuya Satoh, Aya Midori Tokumaru, Kenji Ishii, Atsushi Iwata
掲載日:2026年4月11日
doi:10.1016/j.tjpad.2026.100567

謝辞

本研究は東京都健康長寿医療センター認知症未来社会創造センター(IRIDE)、トランスレーショナルリサーチ課題などの助成金を受けて実施されました。また神経変性・炎症・レビー小体を反映するバイオマーカーはTMIGバイオバンクの検体を用いて行いました。脳脊髄液を用いたレビー小体病の評価は長崎大学 佐藤克也先生との共同研究で行っていただきました。

用語解説

注1) バイオマーカー
バイオマーカーとはある病気の有無や状態を反映する指標で、 アルツハイマー病の診療においてはアミロイドβ抗体薬の投与を考える際に脳内アミロイドβの有無を調べる際などに用いられます。その他にもアルツハイマー病の脳で重要なもう1つのタンパク質であるタウや、高齢者では合併の多い脳血管障害やレビー小体病と関連する情報も得ることができます。

注2) 抗アミロイドβ (Aβ) 抗体薬
脳の中に異常にたまったAβを除去することで、アルツハイマー病による認知機能低下の進行を遅らせることが期待でき、当センターでも積極的に取り組んでいます。詳細は下記を参照。
https://www.tmghig.jp/dementia-support/
https://www.tmghig.jp/hospital/department/dementia-center/cat/(HTML)

注3) レビー小体病
震えや動きづらさで発症するパーキンソン病と、認知症で発症するレビー小体型認知症の脳で見られます。アルツハイマー病と合併することも多く、その際は認知機能低下の進行が早いなどの特徴が示唆されています。

プレス概要(443.9 KB)(PDF)

お問い合わせ

地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター
脳神経内科 専門医長/認知症未来社会創造センター バイオマーカー部門
栗原正典
電話 :03-3964-1141
メール:masanori_kurihara@tmghig.jp
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