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- アルツハイマー病新薬「レカネマブ」の国内実臨床における安全性 ―副作用のARIAの発生を予測しうる因子を特定―
発表のポイント
- レカネマブの副作用ARIAの頻度は、日本人実臨床の方が国際共同治験結果よりも低い。
- 特に、ARIA-E(脳浮腫等)の発生頻度は4%と極めて低く、また無症候であった。
- 投与に至らなかった方の、主な理由は、「重症度が高く適応外」、「副作用の懸念や通院負担などから辞退」。
- ARIAの発生を予測しうる因子として、血漿GFAP高値*を世界で初めて報告。
*GFAP(glial fibrillary acidic protein)は、中枢神経のアストロサイトに特異的に発現するタンパク質で、血液中GFAPの値が高い状態は、脳に炎症などの病的な変化が起きている可能性を示す。
概要
東京都健康長寿医療センター 脳神経内科の嶋﨑亮介、井原涼子らの研究グループは、同センターで早期アルツハイマー病治療薬・レカネマブを使用した患者を対象に、副作用として知られる「アミロイド関連画像異常(ARIA)」の発生実態と、その発生を予測する因子を明らかにしました。ARIAはレカネマブのような抗アミロイドβ抗体薬の作用機序に関連する副作用で、血管に沈着したアミロイドβの除去やアミロイドβ除去に伴う血管周囲の炎症が関わっていると想定されています。
本研究の結果、実臨床におけるARIAの発生率は20%であり、うちARIA-E(脳浮腫等)については4%と国際共同第III相試験(Clarity-AD)の結果の12.6%に比して低いことが確認されました。また、いずれのARIA症例も無症候性でした。さらに、治療開始前のAPOE遺伝子型、認知機能指標、脳内のアミロイドβ蓄積量、および血漿GFAPが、ARIA発生の重要な予測因子となることを、日本人のリアルワールドデータとして示しました。
本研究成果は、レカネマブ治療をより安全に運用するための指針となりうるものであり、2026年4月4日付で、国際学術誌「The Journal of Prevention of Alzheimer's Disease (JPAD)」に掲載されました。
研究の背景
レカネマブは、脳内のアミロイドβを除去することでアルツハイマー病の進行を抑制する画期的な薬剤ですが、副作用としてARIA-E(脳浮腫等)やARIA-H(微小出血等)が生じることが知られています。治験ではその安全性が確認されていますが、合併症を持つ高齢者が多い「実臨床(リアルワールド)」において、日本人患者でどのような頻度で副作用が発生し、どのような人がそのリスクを持つかについては、十分なデータが不足していました。
研究の方法
2023年12月から2025年11月までに、東京都健康長寿医療センターでレカネマブ治療を開始した患者120名を対象に、最長1年半の経過を追跡しました。全ての患者に対して、最適使用推進ガイドラインで規定される定期的なMRI検査を実施し、ARIAの発生頻度と重症度を評価しました。また、治療開始時の認知機能検査(MMSE)、アミロイドPETで測定されるアミロイドβ蓄積量(Centiloid)、ARIAのリスクとして知られているAPOE遺伝子型、および最新の血液バイオマーカーとの関連を詳細に検討しました。また、既知の副作用である注入に伴う反応の頻度、早期中止の頻度についても解析しました。
研究の結果
1. ARIAの発生頻度と重症度
ARIA(EまたはH)の発生率は20%(24名)でした。ARIA-Eは4%(5名)、ARIA-H単独は16%(19名)でした。これは、Clarity-AD試験の結果(ARIA-E 12.6%、ARIA-H 17.3%)より低値でした。
また、いずれのARIAも無症候でした。
2. ARIAの発生を予測しうる因子
治療開始前の評価で次の因子を持つ患者ではARIAの発生リスクが高い傾向が見られました。
- APOE ε4遺伝子型の保有
- MMSEスコア低値
- 治療前MRIにてFazekas 2-3の白質病変を認める
- アミロイドβ蓄積量高値
- 血漿GFAP高値
このうち、血漿GFAP高値がARIAのリスクを予測する可能性を示したのは、本論文が世界で初めてです。血漿GFAPは神経炎症を反映するバイオマーカーで、神経炎症とARIAとの関連が示されたことになります。
3. 注入に伴う反応の発生頻度と重症度
28%(34名)で初回投与時に注入に伴う反応を認めましたが、いずれも軽症でした。
4. 早期中止
18か月に至る前に治療を中止した症例は16%(19名)でした。理由として最も多かったのは、症状の進行でした。
本研究の意義
本研究は、日本の実臨床においてレカネマブが治験データと同等以上に安全に使用されていることを証明する貴重なエビデンスです。特に、血漿GFAPによってARIAのリスクを予測できる可能性を示した点は新規的であり、さらに安全性を高めうる未来を示唆しています。本知見を活用することで、医師は患者一人ひとりのリスクに応じた、よりきめ細やかなモニタリングや治療選択が可能になります。
今後の展望
今後は、レカネマブの実臨床での有効性の検証などを進める予定です。当センターは、アルツハイマー病抗アミロイドβ抗体薬治療のフロントランナーとして、日本の患者様が安心して最新の治療を受けられる体制の構築と情報発信を続けてまいります。
発表論文情報
誌名:The Journal of Prevention of Alzheimer's Disease (JPAD)
タイトル:Amyloid-Related Imaging Abnormalities in Japanese Patients with Alzheimer's Disease Treated with Lecanemab: A Real-World Study
著者: Ryosuke Shimasaki, Masanori Kurihara, Taro Bannai, Keiko Hatano, Fumio Suzuki, Aya Midori Tokumaru, Kenji Ishii, Ryoko Ihara, Atsushi Iwata
DOI: https://doi.org/10.1016/j.tjpad.2026.100562
お問い合わせ
健康長寿イノベーションセンター 臨床開発ユニット
ユニット長 井原 涼子
Email:ihara-tky@umin.ac.jp