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- タンパク質についた糖鎖の“つながり方”を見分ける新解析法を開発 −シアル酸結合様式を部位ごとに判別する糖ペプチド解析へ−
発表(研究)ポイント
- 体内のタンパク質には「糖鎖(とうさ)」と呼ばれる糖の鎖がついているものが多くあります。今回、質量分析という手法を用いてこの糖鎖がついたペプチド(糖ペプチド)を詳しく調べる新しい解析法を開発しました。
- この方法により「どのタンパク質の、どの場所に糖鎖がついているか」に加えて、糖鎖の末端にある「シアル酸」という糖が、どのような向き・つながり方(結合様式)をしているかまで区別できるようになりました。
- 同じ種類・数の糖からできた糖鎖(糖鎖組成)であっても、ついているタンパク質や部位によって、シアル酸のつながり方の割合が異なることが新たにわかりました。
- シアル酸のつながり方の違いは、がんなど様々な病気と関わることが知られています。今回の成果は、病気を見つけるためのバイオマーカーの発見や、病気の発症や進行のメカニズム解明に役立つと期待できます。
研究内容の概要
タンパク質の糖鎖修飾に含まれるシアル酸は主にα2,3-結合あるいはα2,6-結合により付加しています。この違いは生物学的に重要であるにもかかわらず、従来の質量分析を基盤とする糖ペプチド解析法では区別することが困難でした。そこで本研究では、シアル酸結合様式特異的アルキルアミド化法(SALSA: Sialic Acid Linkage Specific Alkylamidation、図1)を用い、結合様式まで区別できる網羅的なN型およびO型糖ペプチド解析法を開発しました。ヒトの血漿タンパク質を解析した結果、同じタンパク質であっても修飾部位によって結合様式のパターンが異なることがわかりました。

図1.シアル酸結合様式特異的アルキルアミド化法(SALSA)の概略
研究の目的
糖鎖修飾はタンパク質の翻訳後修飾の一つであり、修飾部位によってN型糖鎖(*1)とO型糖鎖(*2)に大別されます。糖鎖の構成成分の一つであるシアル酸(*3)はα2,3-結合あるいはα2,6-結合により付加(シアリル化)し、この結合様式の違いはウイルス認識やタンパク質代謝などで重要な役割を果たしています。よって、シアリル化糖鎖の生物学的な意義を明らかにするためには、結合様式まで含めて解析することが重要です。液体クロマトグラフィー/質量分析法(LC-MS/MS、*4)はタンパク質の糖鎖修飾解析において必要不可欠な分析法です。しかしながら、分子量が同じα2,3-結合とα2,6-結合シアル酸を区別することは困難でした。以前、我々のグループは島津製作所との共同研究によりN型糖鎖解析に利用できるSALSAの開発に成功していました。そこで本研究では、SALSAを用いたN型およびO型糖ペプチド(*5)の網羅的解析法の開発を目的としました。
研究成果の概要
本研究で開発した解析法の概略を図2に示します。酵素消化によりタンパク質をペプチドに断片化し、ペプチドに含まれるアミノ基をジメチルラベル化により保護しました。これにより、脱水縮合反応(*6)であるSALSAで生じる副生成物を抑制することができました。その後、SALSAによるシアル酸の誘導体化を行いました。誘導体化後にサンプルを二つに分け、条件の異なる親水性クロマトグラフィーによりN型糖ペプチドとO型糖ペプチドを濃縮してLC-MS/MSを行い、データベース検索により糖ペプチドを同定しました。

図2.SALSAを用いたN型およびO型糖ペプチド解析法の概略
本解析法を用いてアルブミンと免疫グロブリンGを除去したヒト血漿を解析しました。その結果、79個のタンパク質に由来する831個のシアリル化N型糖ペプチド、29個のタンパク質に由来する75個のシアリル化O型糖ペプチドの同定に成功しました。同定されたシアリル化N型糖ペプチドの中には同じ糖鎖組成でシアル酸結合様式が異なるものが多く同定されていました。三分岐で3個のシアル酸を持つN型糖鎖を例にタンパク質の修飾部位ごとに結合様式の割合を算出したところ、同じタンパク質であっても修飾部位によってシアル酸結合様式の割合が異なっていることがわかりました(図3の赤枠)。このような知見はこれまでの糖ペプチド解析法では得られない情報です。

図3.三分岐で3個のシアル酸を持つN型糖鎖の修飾部位ごとのシアル酸結合様式の割合
研究の意義
様々な疾患においてシアル酸の結合様式が変化することが知られています。実際に前立腺がん領域では、α2,3-結合シアル酸の割合を利用した診断補助検査が良性(前立腺肥大症)と悪性(前立腺がん)を区別するものとして実用化されており、シアル酸結合様式を区別することの重要性がうかがえます。本研究で開発した解析法はシアル酸結合様式まで含めて糖ペプチドを網羅的に解析することができます。これにより、新たな疾患バイオマーカーの発見や病気の原因・仕組みの解明への貢献が期待されます。
掲載論文
論文タイトル:Sialic Acid Linkage-Specific Alkylamidation-Based Method for N- and O‑Glycoproteomic Profiling of Human Plasma
著者名(英):Hiroki Tsumoto1, Takashi Nishikaze2, Sadanori Sekiya2, Keitaro Umezawa1, Kyojiro Kawakami1, Yukie Masui1, Kazunori Ikebe3, Kei Kamide3, Takumi Hirata1,
Yasuyuki Gondo3, Shinichi Iwamoto2, Koichi Tanaka2, and Yuri Miura1
著者名(和):津元 裕樹1、西風 隆司2、関谷 禎規2、梅澤 啓太郎1、川上 恭司郎1、増井 幸恵1、池邉 一典3、神出 計3、平田 匠1、権藤 恭之3、岩本 慎一2、田中 耕一2、三浦 ゆり1
所属:1東京都健康長寿医療センター研究所、2島津製作所、3大阪大学
掲載誌名、巻号・ページ:Analytical Chemistry, 2026, 98, 20863–20876.
掲載日:2026年7月21日
リンク:https://doi.org/10.1021/acs.analchem.6c01813
研究助成
本研究は、日本学術振興会 科学研究費助成事業(科研費)(基盤研究C:JP23K06078、JP19K07025)の支援を受けて実施されました。
用語解説
*1 N型糖鎖:タンパク質中のアスパラギン残基のアミド基(-CO-NH2)の窒素(N)に結合する糖鎖の総称。
*2O型糖鎖:タンパク質中のセリンやスレオニン残基の水酸基(-OH)の酸素(O)に結合する糖鎖の総称。
*3シアル酸:炭素9個の単糖であり、酸性のカルボン酸を有するノイラミン酸の誘導体の総称。ヒトでは主にアセチル化されたN-アセチルノイラミン酸である。
*4液体クロマトグラフィー/質量分析法(LC-MS/MS):ペプチドの混合物のような複雑なサンプルを液体で分離する液体クロマトグラフィー部分(LC)と、分子の質量と構造を二段階の質量分析で調べる質量分析部分(MS/MS)を組み合わせた分析法。
*5 糖ペプチド:糖鎖とペプチドが結合した物質の総称。N型糖鎖を持つものをN型糖ペプチド、O型糖鎖を持つものをO型糖ペプチドと呼ぶ。
*6脱水縮合反応:二つの分子から水(H2O)が抜けて新しい結合を作る化学反応のこと。
(例)カルボキシル基(-COOH)+アミノ基(-NH2)→アミド(-CO-NH-)+水(H2O)
お問い合わせ
東京都健康長寿医療センター
老化機構研究チーム(プロテオーム)
主任研究員 津元裕樹
Email: tsumoto@tmig.or.jp