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- 抗アミロイドβ抗体薬の適応評価における血漿リン酸化タウ217の臨床的有用性を確認
発表(研究)のポイント
- 現在の日本の保険診療では脳内アミロイドβの蓄積を確認する検査は、抗アミロイドβ抗体薬の適応判断に限りアミロイドPETまたは脳脊髄液検査で行われますが、費用・地域差・負担の面で課題があります。
- 血漿リン酸化タウ217は血液検査によりアルツハイマー病における脳内アミロイドβ蓄積の有無を高精度に判別し、米国では既に承認され臨床現場で利用されています。
- 日本人でも血漿リン酸化タウ217の性能が確認されてきましたが、最も使用が想定される抗体薬の適応評価を受ける患者集団での検証は十分ではありませんでした。
- 今回、東京都健康長寿医療センター(以下、当センター)専門外来(DMT外来)を受診した患者さんのバイオバンク検体を用いて、抗体薬適応評価における血漿リン酸化タウ217の臨床的有用性を確認しました。
- 抗アミロイドβ抗体薬診療における血液検査の実用化がより一層期待されます。

研究内容の概要
脳神経内科/認知症未来社会創造センターの嶋﨑亮介(東京大学大学院医学系研究科老年病学 医学博士課程)、栗原正典らは、当センターDMT外来患者さんのバイオバンク検体を用い、抗アミロイドβ抗体薬適応評価における血漿リン酸化タウ217の臨床的有用性を確認しました。
本研究成果は2026年9月24日付で、国際学術誌 「Alzheimer's & Dementia: Diagnosis, Assessment & Disease Monitoring」に掲載されました。
研究の目的
現在日本の抗アミロイドβ抗体薬 [注1] レカネマブ・ドナネマブの適応評価において、脳内アミロイドβ (Aβ) 蓄積の確認はアミロイドPETまたは脳脊髄液検査で行われています。しかしPETは比較的高額で撮像施設がない地域では行うことができず、脳脊髄液検査は患者さんや医療従事者の負担が課題です。
血漿リン酸化タウ217 [注2] は血液検査によりアルツハイマー病における脳内アミロイドβ蓄積の有無を高精度に判別し、米国では既に承認され臨床現場で利用されています。当センターを含む多施設共同研究などにより、日本人でも血漿リン酸化タウ217が高い性能を持つことが確認されてきました。しかし、有病率 [注3] や検査の閾値は患者集団によって異なる可能性があり、最も使用が想定される抗体薬の適応評価を受ける患者集団での検証は十分ではありませんでした。そこで本研究は実際の臨床現場で抗体薬の適応評価を受ける患者集団において、血漿リン酸化タウ217の臨床的有用性を評価することを目的に実施しました。
研究成果の概要
2024年10月までに当センターの抗アミロイドβ抗体薬専門外来(DMT外来)を受診した患者さんのうち、TMIGバイオバンク [注4] に同意いただいた99名の方の血液検体を用いて、ルミパルス免疫測定法により血漿リン酸化タウ217の測定を行いました。
解析の結果、検査の性能を示すAUCは0.93と既報告通り高い結果でした。この集団における陽性・陰性を判定する検査の最適な閾値は、0.1795 pg/mLと欧米の研究コホートの報告よりも低く、日本人の早期患者さんを対象としたJ-ADNI研究の結果(0.176 pg/mL)と同程度の結果でした。このカットオフを用いた際の感度は95%、特異度は94%と良好でした。
この集団における脳内アミロイドβ蓄積の有病率は82.8%と高い結果でした。よって検査前から蓄積の確率は高く、血漿リン酸化タウ217が陽性であった場合の陽性的中率 [注3] は98.7%と高い結果でした。一方で血漿リン酸化タウ217が陰性であった場合の陰性的中率 [注3] は80%とやや低い結果でした。しかし陰性と判定する際にはより低い別の閾値を用いることで、この陰性的中率を86.7%まで改善することができました。
研究の意義
本研究により、抗アミロイドβ抗体薬の適応評価における血漿リン酸化タウ217の臨床的有用性が確認されました。また実際に使用が想定される集団における最適な閾値の設定や、その結果を用いた臨床判断について理解を深める重要な研究成果と考えます。今後、抗アミロイドβ抗体薬診療における血液検査の実用化がより一層期待されます。
掲載論文
雑誌名:Alzheimer's & Dementia: Diagnosis, Assessment & Disease Monitoring
論文タイトル:Clinical utility of LUMIPULSE plasma p-tau217 to identify amyloid positivity among candidates for amyloid-targeting treatments in a real-world cohort
著者:Ryosuke Shimasaki, Masanori Kurihara, Kenichiro Sato, Taro Bannai, Keiko Hatano, Kenji Ishii, Ryoko Ihara, Sumito Ogawa, Atsushi Iwata
掲載日:2026年9月24日
doi:http://dx.doi.org/10.1002/dad2.70497(70497)
用語解説
[注1] 抗アミロイドβ (Aβ)抗体薬
脳の中に異常にたまったAβを除去することで、アルツハイマー病による認知機能低下の進行を遅らせることが期待でき、当センターでも積極的に取り組んでいます。
https://www.tmghig.jp/dementia-support/
[注2] 血漿リン酸化タウ217
血液の中の血漿という分画を用いて217番目のアミノ酸がリン酸化されたタウたんぱく質を測定する検査で、アルツハイマー病における脳内アミロイドβ蓄積の有無を高精度に判別することが知られています。詳細は下記プレスリリースもご参照下さい。
https://www.tmig.or.jp/research/news/nid00000683.html(HTML)
[注3] 有病率、陽性的中率、陰性的中率
有病率はある集団において実際にその病気を持っている人の割合を表します。例えば症状がないあるいはそれらしくない集団ではアルツハイマー病の有病率は低く、専門外来で臨床的疑いが強い集団では有病率は高くなります。同じ精度の検査を用いてもこの有病率が異なると、検査を行う前の病気を持っている確率がかわり、検査が陽性・陰性だった場合にその病気を持っている確率(陽性/陰性的中率)は大きく異なることが知られます。

[注4] TMIGバイオバンク
「バイオバンク」とは、同意を得た上で、ご提供頂いた生体試料やそれに付随する情報(診療情報など)を適切に保管し、医学研究に活用する仕組みのことです。「バイオバンク」に集積された多くの試料と情報は、医学研究に活用することにより、病気の原因解明、新たな予防・治療法、治療薬開発(創薬)に結びつくなど、未来の医療にさまざまな可能性が広がります。当センターのTMIGバイオバンクでは認知症をはじめ高齢者の様々な健康状態や病態に応じた血液などの生体試料や付随する情報をデータベース化し、様々な研究への利活用を通じて高齢社会の課題解決に取り組んでいます(TMIGバイオバンク
https://www.tmig.or.jp/biobank/ )
お問い合わせ
地方独立行政法人
東京都健康長寿医療センター
脳神経内科専門医長
認知症未来社会創造センター
バイオマーカー部門
栗原正典
メール:masanori_kurihara@tmghig.jp