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- エネルギー産生や細胞修復に不可欠な補酵素NAD⁺と高齢期のフレイルとの関連を解明 −健康長寿を支える仕組みの理解につながる新たな疫学的知見−
−健康長寿を支える仕組みの理解につながる新たな疫学的知見−
発表のポイント
- 地域在住の65歳以上の高齢者529名を対象として、全血中のNAD⁺ *1濃度とフレイル*2との横断的な関連を検討しました。
- フレイルと判定された32名では、非フレイル群497名と比較して全血NAD⁺濃度*3が有意に低値を示しました。
- 年齢、性別および採血前の絶食時間を調整した多変量解析において、全血NAD⁺濃度が1 μmol/L上昇するごとに、フレイルのオッズが約13%低いことが示されました。
- 本研究は横断研究であるため因果関係は明らかではありませんが、NAD⁺代謝と高齢期の健康との関係をより正確に理解するための基礎的知見となります。
発表内容の概要
東京都健康長寿医療センター研究所の志田隆史研究員らの研究チームは、板橋健康長寿縦断研究において2025年に実施された3年追跡調査に参加した、65歳以上の地域在住高齢者529名を対象に、全血NAD⁺(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)濃度とフレイルとの関連を検討しました。NAD⁺は、細胞のエネルギー代謝や酸化還元反応、細胞内シグナル伝達などに関わる重要な補酵素です。
フレイルは、改訂日本版Cardiovascular Health Study(J-CHS)基準を用い、体重減少、筋力低下、疲労感、歩行速度低下、身体活動低下の5項目で評価しました。該当項目がない場合を「頑健」、1~2項目に該当する場合を「プレフレイル」、3項目以上に該当する場合を「フレイル」と判定しました。
対象者529名のうち、32名(6.0%)がフレイルに該当しました。全血NAD⁺濃度の中央値は、フレイル群で24.00 μmol/L、非フレイル群で25.00 μmol/Lであり、フレイル群で有意に低値を示しました。年齢、性別および採血前の絶食時間を調整した解析でも、全血NAD⁺濃度が1 μmol/L高くなるごとに、フレイルのオッズが約13%低いことが示されました。
一方、全血NAD⁺濃度は、ヘマトクリット*4、ヘモグロビンおよび赤血球数と正の相関を示しました。ヘマトクリットまたはヘモグロビンを追加して調整すると、全血NAD⁺濃度とフレイルとの関連は弱まり、統計学的に有意ではなくなりました。この結果は、両者の関連に赤血球などの血球組成が一部関与している可能性を示しています。したがって、全血NAD⁺濃度を、筋肉をはじめとする各組織のNAD⁺量を直接反映する指標として解釈することはできません。
本研究は横断研究であるため、NAD⁺濃度とフレイルとの因果関係や時間的な前後関係は明らかではありません。しかし、全血NAD⁺濃度とフレイルとの関連を血球組成の影響も含めて検討した本研究は、NAD⁺代謝と高齢期の健康との関係をより理解するための基礎的知見となります。本研究成果は、2026年9月16日付で、国際学術誌「GeroScience」に掲載されました。
本研究の一部は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の長寿科学研究開発事業『新規バイオマーカーを統合した複合マーカーによるサルコペニア評価モデルの開発と妥当性検証』の支援を受けて実施されました。

研究成果の概要
加齢とNAD⁺濃度に関する研究背景
フレイルは、加齢に伴って複数の生理機能が低下し、身体に備わる「予備力」や「回復力」が弱くなった状態です。そのため、感染症やけが、手術などのストレスを受けた際に健康状態を崩しやすく、要介護、入院、死亡などのリスク上昇と関連します。しかし、フレイルが生じる生物学的な仕組みには不明な点が多く、身体の脆弱性やその背景にある代謝異常を客観的に捉える指標(バイオマーカー)の確立が求められています。近年、代謝変化やミトコンドリア機能低下などが、加齢やフレイルに関わる可能性が注目されています。NAD⁺は、ほぼすべての細胞に存在し、栄養素からエネルギーをつくる過程や酸化還元反応に不可欠な補酵素です。また、細胞内の情報伝達やストレス応答などにも関与しており、NAD⁺代謝の変化は、加齢や加齢関連疾患との関連が示唆されています。
本研究の目的と方法
このような背景を踏まえ、我々の研究チームは、地域在住高齢者を対象に、全血NAD⁺濃度とフレイルとの関連を検討することを目的としました。本研究では、2025年に東京都板橋区で実施された「板橋健康長寿縦断研究」の3年追跡調査のデータを横断的に解析しました。フレイルの評価項目、全血NAD⁺濃度、採血前の絶食時間のデータがそろった65歳以上の高齢者529名(年齢中央値80.0歳)を解析対象としました。フレイルは改訂日本版Cardiovascular Health Study(J-CHS)基準を用いて評価し、全血NAD⁺濃度は採血後に安定化処理した血液を用いて酵素サイクリング法で測定しました。さらに、年齢、性別、採血前の絶食時間に加え、血球組成に関連する指標の影響も考慮して、全血NAD⁺濃度とフレイルとの関連を分析しました。
研究結果
解析対象者529名のうち、頑健は251名(47.4%)、プレフレイルは246名(46.5%)、フレイルは32名(6.0%)でした。全血NAD⁺濃度の中央値[四分位範囲]は、頑健群26.00[24.00–28.00]μmol/L、プレフレイル群25.00[23.00–28.00]μmol/L、フレイル群24.00[20.75–26.00]μmol/Lで、フレイルの程度が高い群ほど低い傾向を示しました。
- 頑健群とプレフレイル群を合わせた非フレイル群と比較すると、フレイル群の全血NAD⁺濃度は有意に低値でした(中央値24.00μmol/L対25.00 μmol/L、P=0.007)。年齢、性別、採血前の絶食時間を調整した解析でも、フレイル群では非フレイル群より1.673 μmol/L低いことが示されました(95%信頼区間 −3.105~−0.241、P=0.022)。
- 全血NAD⁺濃度が1 μmol/L高いごとに、フレイルのオッズが約13%低い関連を認めました(OR 0.871、95%信頼区間0.780–0.970、P=0.013)。また、全血NAD⁺濃度が高くなるにつれてフレイルのオッズがおおむね低くなる関係が示され、明確な非線形性は認められませんでした。
- 必要なデータがそろった497名を対象に、BMI、喫煙、飲酒、血清アルブミン、腎機能、糖尿病・肝疾患の影響を加えて検討しても、関連は概ね維持されました(OR 0.880、95%信頼区間0.782–0.986、P=0.027)。
- 全血NAD⁺濃度は、ヘマトクリット、ヘモグロビン、赤血球数と正の相関を示しました。一方、ヘマトクリットを加えて調整すると、フレイルとの関連は弱まり、統計学的に明確ではなくなりました(OR 0.911、95%信頼区間0.800–1.034、P=0.151)。ヘモグロビンを調整した場合にも同様の結果が得られ、全血NAD⁺濃度とフレイルとの関連には、赤血球などの血球組成が一部関与する可能性が示されました。
- フレイルの5項目を個別に調べた探索的解析では、全血NAD⁺濃度の高さは、身体活動低下および筋力低下のオッズの低さと関連しました。ただし、複数項目を同時に検討した影響を補正すると統計学的に明確ではなくなったため、今後の研究で確認する必要があります。
研究成果の意義
本研究では、地域在住高齢者において、全血NAD⁺濃度の低さがフレイルおよびその程度と関連することを示しました。一方、全血NAD⁺濃度はヘマトクリットやヘモグロビンなどとも関連しており、測定値に血球組成が影響する可能性があります。そのため、全血NAD⁺濃度が筋肉など各組織のNAD⁺量を直接反映するとは限りません。
本研究は一時点のデータを用いた横断研究であり、因果関係は明らかではありません。今後は、同じ対象者を継続的に追跡するとともに、細胞・組織ごとのNAD⁺を測定し、NAD⁺代謝とフレイルとの関係を詳しく検証する必要があります。なお、本研究は、NAD⁺前駆体サプリメントによるフレイルの予防・改善効果を示すものではありません。
掲載論文
論文情報
雑誌名:GeroScience
論文名:Association between whole-blood NAD+ concentration and frailty in community-dwelling older adults: the Itabashi Longitudinal Study on Aging
著者:Takashi Shida, Sho Hatanaka, Narumi Kojima, Yosuke Osuka, Hiroyuki Sasai
論文種別:Original Article
オンライン掲載日:2026年9月16日
DOI:10.1007/s11357-026-02545-9
用語解説
*1. NAD⁺(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド):細胞内でのエネルギー産生や酸化還元反応などに関わる補酵素です。
*2. フレイル:加齢などにより心身の機能や回復力が低下し、健康を損ないやすくなった状態です。
*3. 全血NAD⁺濃度:赤血球などの血球と血漿を含む、血液全体に含まれるNAD⁺の濃度です。
*4. ヘマトクリット:血液全体に占める赤血球の容積の割合を示す値です。
お問い合わせ
地方独立行政法人
東京都健康長寿医療センター
自立促進と精神保健研究チーム
フレイル・筋骨格系の健康研究 志田 隆史
メール t_shida@tmig.or.jp