CCND1; CYCLIN D1
[別名]
PRAD1; PARATHYROID ADENOMATOSIS 1
BCL1; B-CELL CLL/LYMPHOMA 1
B-CELL LEUKEMIA 1

CCND2; CYCLIN D2

CCND3; CYCLIN D3

CDK4; CYCLIN-DEPENDENT KINASE 4
[別名]
CELL DIVISION KINASE 4
PSK-J3

CDK6; CYCLIN-DEPENDENT KINASE 6
[別名]
PLSTIRE

キーワード

 細胞周期、G1期、チェックポイント、細胞増殖、がん

歴史とあらまし

 サイクリンはカエルや酵母等の研究から細胞周期に応じて周囲的に変動するタンパク質として発見され、これまでにほ乳類では約20種類見つかっている。このうち酵母のG1サイクリンの欠損株をレスキューできるほ乳類cDNAの探索研究の中でサイクリンDは発見され、増殖因子によって発現が誘導されること、染色体転座に伴う発がんと関係することもほぼ同じ時期に明らかとなった。細胞周期の進行制御にはサイクリンに依存して働くセリン/スレオニンキナーゼであるCDKが関わっている。

分子構造

 D-typeのサイクリンは、D1,D2,D3の3種類存在し、その発現は組織特異的である。Cyclin D1は11番染色体にあり、295アミノ酸からなる分子量36kDaのタンパク質。Cyclin D2は12番染色体にあり、289アミノ酸からなる分子量30kDaのタンパク質。Cyclin D3は6番染色体で、292アミノ酸からなる分子量31kDaのタンパク質。いずれもCDK4またはCDK6と複合体を形成する。その複合体の相手であるCDK4は12番染色体にあり、303アミノ酸からなる分子量30kDaのタンパク質。CDK6は7番染色体にあり、326アミノ酸からなる分子量36kDaのタンパク質。
CDKはいずれもセリン・スレオニンキナーゼ活性を有するドメインを有する。

機能

 細胞周期は、周期的に発現する異なったサイクリンと周期的に活性化するCDKによって制御されている。このうちG1期は外からの刺激を受け入れる唯一の時期で、高等動物の細胞周期の中で細胞の運命を決定する上で重要であり、その制御を行っているのがG1サイクリンであり、Cyclin DとEが知られている。増殖刺激がはいるとD-typeのサイクリンが合成され、CDK4/6と複合体を形成し、G1期のチェックポイント(R点:Restriction Point; S期に進むかどうかを決断するポイント)の制御(DNA損傷の有無、環境条件のチェック、細胞の大きさ等)を担う。Cyclin Dは、mRNAもタンパク質も非常に不安定であり、したがって転写レベルで調節されている。Cyclin D-CDK複合体は、複合体形成促進因子や核移行の補助等をうけて核内へ移行し、Rbタンパク質をリン酸化するとともに、CDKインヒビターの一つであるp27kip1の機能を抑制する。Rbタンパク質のリン酸化は転写因子であるE2Fの転写活性化能を誘導する。その結果Cyclin Eの転写を上げて、CDK2と結合してその活性化をもたらして細胞周期をS期へともたらす。Cyclin Dは役目を終えると、GSK3βによってスレオニン残基のリン酸化を受けて核外へと排出され、プロテアソームによって分解される。
サイクリンやCDKの必要性は細胞によって異なっており、一部サイクリンやCDKはその機能に重複が見られる。実際に個体レベルにおいて、サイクリンD1を欠くマウスにおいて見られる表現系が、同遺伝子領域をサイクリンE1で置換して大部分元に戻ったことが報告されている(Malumbres & Barbacid, 2009; 143)

老化・老年病における意義

 Cyclin D1は染色体転座の標的遺伝子として単離されていることから発がんの標的遺伝子である。B細胞リンパ腫、副甲状腺がん、食道がん、乳がん、膀胱がん等染色体11q13の領域の増幅が認められるがんにおいて、その領域においてcyclin D1の遺伝子が存在する。転座以外にも転写の活性化、mRNAの安定化、タンパク質の高発現が一部のがんで認められている。サイクリンDが核内で安定化することで細胞のがん化の重要な要因となることが示唆されている。これは、増殖が停止した心筋細胞へCyclin D1に核移行シグナルをつけてCDK4とともに導入させるとS期・G2/M期へと細胞周期がまわったとする報告とも関係する。
ヒトの初代細胞は細胞老化によって増殖停止の状態であるSenescenceになることが知られている。こうした初代培養細胞にhTERTとともにCyclin D1,p16ink4aと結合できない変異CDK4(CDK4R24C)を導入すると細胞が不死化することが報告されている。
生後細胞が最終分化し分裂を停止する上で、G1サイクリン-CDK複合体の局在が何らかの制御をうけていることが示唆されており、がん化との関連とともに、細胞増殖の再開による細胞機能の回復をおこなう再生医療とも関係しており、注目されている。

Database

Cyclin D1 (CCND1)
Cyclin D2 (CCND2)
Cyclin D3 (CCND3)

CDK4
CDK6

参考文献

1) Matsushime H, Quelle DE et al.(1994) D-type cyclin-dependent kinase activity in mammalian cells. Mol. Cell. Biol. 14, 2066-2076. (PMID: 8114738)
2) Sherr, CJ (1995). D-type cyclins. Trends Biochem Sci 20, 187-190 (PMID: 7610482)
3) Geng Y, Whoriskey W et al. (1999) Rescue of cyclin D1 deficiency by knockin cyclin E. Cell, 97, 767-777. (PMID: 10380928)
4) Shiomi K, Kiyono T et al. (2011) CDK4 and cyclin D1 allow human myogenic cells to recapture growth property without compromising differentiation potential. Gene Ther. 18, 857-866. (PMID: 21490680)
5) Tamamori-adachi M, Takagi H et al. (2008) Cardiomyocyte proliferation and protection against post-myocardial infarction heart failure by cyclin D1 and Skp2 ubiquitin ligase. Cardiovasc. Res. 80, 181-190. (PMID: 596061)
6) Diehl JA, Cheng M, et al. (1998) Glycogen synthase kinase-3beta regulates cyclin D1 proteolysis and subcellular localization. Genes Dev 12, 3499-3511. (PMID: 9832503
7) Hall M, and Peters G (1996) Genetic alterations of cyclins, cyclin-dependent kinases, and Cdk inhibitors in human cancer. Adv Cancer Res 68, 67-108. (PMID: 8712071)
8) Gladden AB, Woolery R, et al. (2006). Expression of constitutively nuclear cyclin D1 in murine lymphocytes induces B-cell lymphoma. Oncogene 25, 998-1007. (PMID: 16247460)
9) Musgrove EA, Caldon CE et al. (2011) Cyclin D as a therapeutic target in cancer. Nature Rev. Cancer, 11, 558-572. (PMID: 21734724)

作成者

豊田雅士 20120910

Update 20120914

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