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正常圧水頭症
疾患概要
水頭症は歩行・認知機能・排尿が障害され、シャント手術によって治療ができます。
しかし、症状がゆっくりと現れるので「老化かな?」と見過ごされがちです。水頭症患者のうち1割ほどしか病院を受診していません。
転んで足や腰の骨折など大きな怪我をしてから気づかれることも少なくありません。
原因・症状
加齢とともに髄液の吸収が悪くなることが原因です。
歩きにくい、転びやすくなった。ぼんやりして元気がなくなった。尿をがまんできなくなり、もらすようになった。
水頭症になると歩行がおぼつかなくなり、足を横にひらいて、すり足で小またで、ヨチヨチと歩くようになります。方向をかえるときにふらつきが目立ちます。
自発性が低くなってぼんやりして元気がなくなり、集中力がなく同じ間違いをくりかえすようになります。アルツハイマー病などのように、まわりの状況がわからなくなり興奮して暴れたり徘徊したりすることは少ないです。ただし1人の患者さんが水頭症とアルツハイマー病の両方にかかっていることも多いです。
尿の回数が増えてがまんできず漏らしやすくなります。
すべての症状がそろわず、たとえば歩きにくさだけで気づかれることも多いです。
もの忘れがめだつようになった。自発性や集中力が低下して、ぼんやりして元気がなくなった。(髄液がたまって脳の機能が低下)
髄液は脳と脊髄にある液体で細い動脈で血液からつくられ、脳室や脳溝を満たしています。髄液は神経のまわりの老廃物を洗い流して、リンパ管や静脈に吸収されていきます。加齢とともに洗い流すところに目づまりが起きると、余分な髄液がたまって脳の機能が低下します。
水頭症の患者さんは脳室や脳溝が大きくなっていますが、頭頂部の脳溝は狭いことが特徴で、頭部CT検査やMRI検査でこれがあれば手術の効果が期待できます。
タップテストといって、腰に針を刺して髄液を抜いてみることも診断の役に立ちます。
これらの症状がさまざまに組み合わさって出現します。
検査
頭部CT・MRI検査
髄液がたまった脳室が上にむかって大きくなっており、頭頂部の脳溝が狭いことが特徴です。
CTやMRI検査で水頭症が疑われたものの症状がほとんど無いと手術はしません。そういった患者さんの半分くらいは数年後に症状が出てきたという報告があります。そのため定期的に外来で様子を見るようにしています。

タップテスト
水頭症かもしれない患者さんは、手術の前にしらべなければいけないことがあります。それは、
- 髄液を抜いて症状がよくなるのか
- 髄液はすみやかに流れ出るのか
- 髄液の圧力はどのくらいか
- 髄液ににごりや感染がないか、といったことです。
ためしに髄液を抜くために頭を切って骨に穴をあけるのはたいへんです。そこで腰骨のすきまから針を刺して、脊髄の周りから髄液をぬきます。これがタップテストです。

髄液と、脳と脊髄
脳のまわりは、くも膜という厚みのあるスポンジのような膜でおおわれています。脳の中には脳室という部屋があります。くも膜と脳室は「髄液」という水道水のような透明でさらさらとした水で満たされています。

くも膜の外は硬膜という固い膜で、さらに外は骨、筋肉、皮膚でおおわれています。

水頭症を治療するときは皮膚、骨、硬膜に穴をあけて脳室に管を入れます。

脳から背骨のなかへ神経の束である脊髄がのびています。この脊髄も、くも膜と髄液、硬膜でおおわれています。

タップテストのやりかた
① 外来にて
まずベッドに横になって丸くなります。

背中にしるしをつけて、局所麻酔を注射します。

麻酔が効くまでのあいだに、消毒、清潔な布をかけて、道具を準備します。

腰骨のすきまに針を刺します。針が入ると髄液がでてきます。中の圧力を測るなどします。

髄液をぽたぽたと、5~10分ほどかけて出します。なるべくたくさん、頭が痛くならない程度まで出します。

終わったら針を抜いて、30分ほど休んでから帰ります。
② 家にかえってから1週間後の外来まで
髄液が問題を起こしているのなら、これを抜いてから1-2日後に、歩きやすくなったり、話しかたがはっきりしたり、尿の回数が減ったりなど、症状が良くなることが多いです。しかし1週間ほどするとまた髄液がたまって症状も戻ってきます。
1週間後の外来でその変化を確認して、手術を行うかどうか相談します。
治療
水頭症を薬で治すことは、まだできません。
髄液を抜く管を体に埋めこむ手術によって、脳の機能を回復させます。この管をシャントといいます。手術は全身麻酔で行います。
歩きにくくなって頭部CT検査で診断され、シャント手術を行った患者さんの80%で症状が改善したと報告されています(Miyajima M, et al. J Neurosurg 125:1483-1492, 2016)。
カテーテルを埋めこむ場所は3種類あり、どれも1時間ほどで終わって効果に差はありません。患者さんそれぞれの状態に合わせて選びます。
脳室―腹腔シャント
前頭部か後頭部の頭蓋骨に1個の孔を開けます。ここから髄液がたまった脳室にむかって2㎜ほどの太さの管を挿入します。管のもう一端は皮膚の下を頚、胸から腹部まで通し、腸と腸のあいだに入れます。(図1)
図1腰椎―腹腔シャント
背中から腰椎のすきまを通して髄液のある空間に、1㎜ほどの太さの管を挿入します。管のもう一端は皮膚の下を腰から腹部まで通し、腸のあいだに入れます。(図2)
図2脳室―心房シャント
前頭部か後頭部の頭蓋骨に1個の孔を開けます。ここから髄液がたまった脳室にむかって2㎜ほどの太さの管を挿入します。管のもう一端は頚部の静脈から心房にむかって入れます。(図3)
図33種類の方法は効果に差はありません。患者さんそれぞれの状態によって選択します。たとえば頭部の手術や感染をくりかえした患者さんでは、脳室―腹腔シャントは閉塞や感染しやすくなります。年齢とともに腰の骨の変形が強くなっていると、腰椎―腹腔シャントは閉塞してしまうことが多くなります。心不全があると脳室―心房シャントは勧められません。
手術の前日に入院し、食事は止めて入浴や点滴などの準備を行います。手術は1〜2時間ほどで終了します。手術翌日から食事や歩行を開始し、1〜2週間で退院します。(表4)
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手術と周術期管理 | 食事 | 検査 | 点滴・注射 |
| 1日目
入院日 |
入浴して全身を清潔にします。脳室腹腔シャント術を受ける場合は、頭髪を剃ります。 | 食事は中止しますが、飲水は可能です。 | 水分補給のために、点滴を開始します。 | |
| 2日目
手術日 |
手術を行います。麻酔の時間も入れて3時間程度で終了します。 | 食事も飲水も中止です。 | 点滴を続けます。 | |
| 3日目 | 食事と飲水を再開します。 | 頭部CT 検査を行い、脳出血などの異常がないか確認します。 | 食事量が十分であれば、点滴を終了します。 | |
| 4~7日目 | 歩行練習を中心としたリハビリテーションを行います。 | |||
| 8日目 | 症状の変化と検査結果を検討して、シャントの流量を調整します。創部の抜糸を行います。 | 頭部CT 検査を行い、髄液が抜けすぎていないか確認します。 | ||
| 9日目以降 | 状態が安定していれば退院します。さらに入院を延長してシャント流量の調整を続ける場合もあります。 |
表4 入院日程表
当院では2019年から2024年までの6年間に、150人の正常圧水頭症患者に対してシャント術を行いました。全体に患者さんの数が増えており、2024年はタップテストが101例、シャント術は60例でした。(グラフ5)
グラフ5 当院の正常圧水頭症に対するタップテストとシャント手術の件数術後3ヶ月目の外来で、生活状況を聴き取り、3mTUG、 MMSE、iNPHグレーディングスケールなどの方法で評価したところ、73%の患者で改善が確認されました。(グラフ6)
グラフ6 シャント術によってどの程度改善したかシャント術で重い合併症がおきる可能性は3%と報告されています。当院の5年間79例では以下のような合併症が発生しました。
- 感染したためシャントを抜去した(1例)
- シャントが閉塞した(1例)
- 脳出血をきたしたが手術は不要で後遺症は無かった(2例)
- てんかん発作が起きたので薬で治療した(1例)
- 硬膜下水腫・血腫をきたして軽度の麻痺が出現したものの、シャントの設定を調整して対処できた(1例)
手術終了時の洗髪で血液汚れを流しとります。

手術のあとは外来で診察を続けます。脳神経内科や整形外科に相談する場合もあります。
退院して1年ほどは、数ヶ月おきに外来で診察をつづけます。髄液をシャントに流す量を調節するためです。
髄液ができる量もたまる量も、患者さんによって違います。多く流しすぎると脳の表面に血液がたまってきてしまうことがあります。シャントが詰まって流れなくなってしまうこともあります。手術後に太ったり便秘になったりすると、シャントの流れが悪くなることがあります。
状態にあわせて蛇口を開けたり閉めたりします。
調節は外来で5分ほどの作業で終わります。
水頭症の患者さんの半分ちかくは、アルツハイマー病など他の認知症にもかかっています。水頭症の治療がうまくいっても、アルツハイマー病が進行して生活に支障がでてしまうことも少なくありません。
当院では認知症の専門家である脳神経内科医による診察・治療も行います。認知症が進行すると社会的サポートが必要になります。その場合は医療ソーシャルワーカーと連携してご相談にのります。
歩きにくさは頚椎や股関節の問題が原因であることも少なくありません。当院では専門の整形外科医と相談して治療を行います。
水頭症の治療がうまくいっても、閉じこもりがちで歩かなくなると下肢の筋力が低下して転びやすくなってしまいます。筋力を維持するように運動をつづけることも大切です。
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