もやもや病
代表的な症状
- 脳卒中(くも膜下出血、脳出血、脳梗塞)
- 慢性的な頭痛
- てんかん発作、不随意運動
- 認知機能障害
疾患概要
もやもや病とは、ヒトの脳を栄養する大事な血管である内頚動脈が、脳に入ってから二股にわかれるところで急速に狭窄し、徐々に閉塞していく病気です。狭窄の進行に伴い、脳血流を保つための代償として、脳の中心にもやもや血管という異常な血管が育ってきます。この異常血管が煙のように"もやもや"として見えることから、"もやもや病"という病名がついています(図1)。もやもや病は、難病指定されている希少疾患です。女性に約2倍多く、小児70%、成人30%と小児に多い疾患ですが、近年では脳ドックなどのスクリーニング検査の普及に伴い、成人になってから偶然発見されるケースも増えています。以前は両側性の患者のみがもやもや病と診断されていましたが、診断基準の度重なる見直しにより、近年では片側性の患者でも、もやもや病と診断することが可能となったため、患者数はますます増加しています。
図1原因・症状
日本を主とする東アジアに特有の病期で、原因は完全には解明されていませんが、RNF213遺伝子変異との関連が知られています。また、一部の患者に家族内発生がみられます。
もやもや病は、脆い異常血管が破れることで、くも膜下出血や脳内出血などの頭蓋内出血を引き起こします。また、内頚動脈狭窄による脳血流の低下により、脳梗塞や一過性脳虚血発作などの虚血症状も引き起こします。こうした脳卒中の再発率は、成人例では、出血型7%/年、虚血型2%/年とも言われており、非常に高いことが分かっています。また、近年はこうした脳卒中を起こしていない、もしくは本人は気づかないようなごく軽度の脳卒中の段階でも、慢性的な頭痛のみで発見されるケースや、脳ドックなどのスクリーニング検査で偶然発見されるケースも増えています。また、これらのかぎりなく無症状のもやもや病患者においても、実はよくしらべてみると約1/4の患者に微妙な認知機能障害が隠れていると言われています。この認知機能障害は、仕事や学業などのさまざまな場面において、処理スピードの低下や、マルチタスクの困難さとして表れ、一見気づかれにくい特徴があります。
検査
MRIや脳血管撮影(カテーテル検査)で、内頚動脈の狭窄や、脳の中心部のもやもや血管の信号を証明することで診断されます。手術が必要な患者においては、カテーテル検査による脳血管の詳細な評価や、脳血流SPECT検査により、脳血行動態を詳細に把握することが必要です。
治療
脳出血や脳梗塞、一過性の脳虚血発作などを起こしている場合は、基本的には再発予防のための外科的治療の対象となります。また、無症状で偶然発見された場合は、慎重な経過観察となることがほとんどですが、耐え難い虚血関連頭痛や、著しい脳血流の低下があり、経過観察による脳卒中リスクが高いことが予想される場合は、予防的な血行再建術を検討します。残念ながらもやもや病に対する内服治療はなく、外科的な血行再建術(バイパス手術)が唯一の治療法です。
脳血管バイパス術
頭皮の栄養血管を直接脳血管へつなぎ変える直接バイパスと、側頭筋などの血の通った組織を脳の表面に敷きこんで、脳への血管新生をうながす間接バイパスという方法があります。直接バイパスの方が即効性であり、成人では間接バイパスが発達しにくいと言われているため、成人の場合の手術の中心は、直接バイパスです(図2)。症例に応じて、直接バイパスと間接バイパスを組み合わせることがあります。もやもや病では、脳の血管が非常に細くなっており、かつ血管の壁が非常に薄くなっているため、血管吻合の技術的難易度は、動脈硬化性病変へのバイパス術と比べて相対的に高くなります。手術を安定して行うためには、豊富なもやもや病の治療経験が重要ですので、是非当科へご相談頂ければと思います。
図2両側性病変の患者様では、片側ずつ、数か月~半年ほどの間隔をあけて、両側に対して手術を行います。両側の手術を行った代表症例の画像を提示します。バイパスにより脳血流が改善し(図3)、それによりもやもや血管が消退しています(図4)。これにより、出血型と虚血型の両方に対して、脳卒中予防効果があることがわかります。
図3
図4手術直後は、バイパスにより脳血流が流れ過ぎるようになってしまう(過灌流症候群)ことで、てんかん発作が止まらなくなったり、血管性の脳浮腫により、局所神経症状(麻痺や失語など)が出現し、まれに永続的後遺症として残ってしまうことがあります。また重度の過灌流症候群になった場合は、脳血管が破綻して重篤な脳出血を起こすことがあります。そのため、術後は厳重な血圧管理を行い、過灌流状態が疑われる場合には、麻酔薬による鎮静を数日(多くは3日間ほどで落ち着きます)行うこともあります。通常、手術入院の場合の入院期間は2週間強ですが、術後の血行動態により通常より長引くこともあります。