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研究所NEWS No.322
2026年6月発行
内容
注目記事
その他(PDFでお読みいただけます)
- 第42回所内研究討論会レポート
- 令和8年度新幹部・新入職員紹介
- 令和8年度科学技術週間参加行事開催レポート
- 第177回老年学・老年医学公開講座のお知らせ
- 主なマスコミ報道
- 編集後記
令和7年度友の会交流会 ダイジェスト
令和8年3月4日(水)に、令和7年度友の会交流会が開催されました。当日は約30 名の方が参加され、「よく理解して服用することが大切だと思った」「周囲の方々にも伝えていきたい」といったご感想をいただきました。ここでは、当日の講演内容を皆さまにもお届けいたします。
薬を使いこなして健やかに~ポリファーマシーへの正しい理解を深めよう~
福祉と生活ケア研究チーム 研究部長 平田 匠
まずは自分の薬を知ることから
年齢を重ねると医療機関にかかり、お薬を処方される機会が増えてくると思います。しかし、多くの人が処方された薬を飲んでいる一方で、薬の目的や働きを十分に理解していないことも少なくありません。薬を安全に使うためには、自分が飲んでいる薬の種類や目的を理解することが重要です。
多くの薬を飲む「多剤服用」とその問題
多剤服用とは、多くの種類の薬を服用している状態を指します。明確な定義はありませんが、医療保険制度上は、40 ~ 64歳は6種類以上、65 ~ 74歳は9種類以上、75歳以上は15種類以上の薬が処方されている場合に多剤処方と扱われています。
ただし、問題は数そのものではなく、薬が増えることで副作用のリスクが高まる点です。当研究所が行っている住民の方々を対象とした「SONIC研究」でも、薬の数が多い人ほど握力や歩行速度などの身体機能が低下しやすいことが確認されています。また、多剤服用は主観的健康感とも関連しています。高齢者約1100名の調査では、薬の数が多い人ほど、3年後に「自分は健康ではない」と感じる割合が高いことが分かりました。特に5~9種類、10種類以上の薬を服用している人では、その傾向がより強く見られました。さらに、健康感が相対的に低い人では、制酸薬、胃腸薬、抗不安睡眠薬などを服用している割合が高く、多剤服用者では不眠や胃腸症状に対して薬を使用することで多剤となっている可能性が示唆されています。
ポリファーマシーとは
ポリファーマシーとは、多剤服用のうち、単に薬の数が多いだけでなく、副作用の増加や飲み間違い、飲み忘れなどの問題が生じている状態を指します。複数の医療機関を受診し、それぞれの病院から薬が処方されることで起こりやすく、結果として薬の数が増えてしまうことがあります。そこで、薬と上手に付き合うために、以下の5つを意識してみましょう。
①自己判断で薬の使用をやめない
②使っている薬は必ず伝える
③むやみに薬を欲しがらない
④若い頃と同じだと思わない
⑤薬は優先順位を考えて最小限にする
そして、かかりつけ医や薬局が薬の情報を共有しながら、薬が正しく使用できているか、重複した薬がないか、副作用が起きていないかを確認し、必要に応じて処方を見直すことも重要です。
服薬支援ツールやお薬手帳を活用しましょう
図1 スマートウォッチ事業参加の有無と抑うつ症状ならびに食品摂取多様性の2年間の変化薬局を活用した健康管理とセルフケア
薬を安全に使うためには、身近に相談でかりつけ薬局・かかりつけ薬剤師」を持つことが 大切です。かかりつけ薬剤師は、服用している薬 の情報をまとめて管理し、飲み合わせや副作用の 確認、医療機関との連携などを通して適切な薬の 使用を支援します。また、健康サポート薬局では、 薬の相談だけでなく、健康づくりや生活習慣に関 する相談にも応じています。さらに、軽い体調不良の際には市販薬(OTC医薬品)を適切に利用する「セルフメディケーション」も重要で、薬剤師の助言を受けながら自分の健康を管理していくことが勧められています。
おわりに~薬を使いこなして健やかに~
薬は健康を守るために大切なものですが、使い方を誤ると、副作用などのリスクにつながることがあります。自分が飲んでいる薬を知り、気になることがあれば医師や薬剤師に相談することが大切です。かかりつけ薬局や薬剤師を活用しながら、薬と上手に付き合い、これからも健やかな生活を送りましょう。
坂口志文先生 特別講演会「ノーベル生理学・医学賞 受賞までの道のり」レポート
自然科学系 副所長 石神 昭人
坂口志文先生は、免疫の過剰反応を抑える「制御性T細胞(Treg)」を発見し、その機能を明らかにした功績により、2025年ノーベル生理学・医学賞を受賞されました。
坂口先生は1995年から1999年まで東京都老人総合研究所(現・東京都健康長寿医療センター研究所)の免疫病理部門長を務められ、ノーベル賞につながる基礎研究を推進されました。受賞理由の一つとなった主要論文1)も、同研究所在籍中に発表されたものです。この論文では、制御性T細胞に特異的な分子マーカーを世界で初めて同定し、これらの細胞が免疫自己寛容の維持に中心的な役割を果たすことを示されました。

本講演会では、研究の歩みとともに、東京都老人総合研究所での若き日の思い出についてもお話しいただきました。多数の来場希望が見込まれたため事前申込制とし、応募多数の場合は抽選といたしました。募集人数1,000人に対し、同伴者を含め約3,500人の応募があり、多くの方にご参加いただけなかったことをお詫び申し上げます。なお、講演の様子はセンター公式YouTubeでの配信を予定しております。
坂口先生の講演「制御性T細胞:その発見から新しい治療に向けて」では、まず研究所での思い出や大山での生活について語られました。さらに、 2025年ノーベル賞授賞式(ストックホルム)の写真とともに、その様子も紹介されました。研究内容としては、「免疫寛容とは何か」「免疫寛容と自己免疫」「免疫自己寛容がどのように成立・維持されるのか」といった基本概念から、制御性T細胞の同定に至る研究の歴史まで、わかりやすく解説されました。後半では、「自己免疫疾患に対する抗原特異的免疫寛容の誘導」や「がん免疫療法への応用」など、将来の医療への展望についてもお話しいただきました。


最後に坂口先生から、「どんな時にも楽天的であることが大切」という、来場者および若い世代へのメッセージが贈られ、講演会は盛会のうちに終了しました。ご参加いただいた皆様に心より感謝申し上げます。
東武東上線沿線のときわ台駅付近から毎日15分ほど歩いて通勤されていたという、当時を振り返る懐かしい思い出話から始まり、今回の受賞につながる重要な基盤となった当センター在籍時の研究内容にも触れられました。
質疑応答では、「体を鍛えることと同じように、頭も鍛えられる。AIに質問すれば簡単に答えが得られる時代だからこそ、自分で考え、解決していくことが大切であり、自分自身を納得させるために勉強することが重要である」と、日本初のノーベル物理学賞受賞者・湯川秀樹先生の言葉を引用した力強いメッセージが贈られました。


講演会後には、坂口先生の奥様も一緒に当センターをご見学いただきました。病理診断科では、当時坂口先生がサインされた解剖資料などをご紹介し、懐かしそうにご覧になっていました。その後、ブレインバンクも見学され、説明に熱心に耳を傾けておられる姿が印象的でした。
オーラルフレイルのチェック項目で口のささいな衰えを見逃さない
立促進と精神保健研究チーム 研究部長 平野 浩彦/研究員 白部 麻樹
近年、日本では高齢になっても自分の歯を多く保つ人が増えています。1989年に始まった「8020運動(80歳になっても20本以上自分の歯を保とうという運動)」が広く普及し、2024年にはその達成者が6割を超えました。これは、むし歯や歯周病の予防が定着し、多くの人が歯の本数を守れるようになってきたことを示しています。一方で、高齢期の健康を考えるうえでは、歯の本数だけではなく「口の機能」にも目を向けることが大切です。フレイル予防には「栄養」「身体活動」「社会参加」の3つが重要とされています。特に、バランスのよい食
事や必要な栄養をしっかり摂るためには、食の入口である“口”の機能が欠かせません。口は、食べ物を噛む(咀嚼)、飲み込む(嚥下)といった食べる機能だけではなく、話す、表情をつくるなど、コミュニケーションにも重要な役割を担っています。
こうした口の機能の“ささいな衰え”が重複した状態を、「オーラルフレイル」と呼びます。これは、口の機能の健常な状態(いわゆる『健口』)と『口の機能低下』との間にある状態です。年齢とともに「食べにくくなった」「むせやすくなった」と感じても、「齢(とし)のせい」と思って、そのままにし
てしまうことがあります。しかし、自ら固いものを避けるようになると、結果として食べられる食品の種類が減るなど、食の多様性を狭めることにつながります。さらに、“口のささいな衰え”に気づかず放置すると、口の機能低下が進み、低栄養やフレイルにつながる可能性も指摘されています(図1)。
図1 オーラルフレイル概念図出典: 一般社団法人日本老年医学会, 一般社団法人日本老年歯科医学会, 一般社団法人日本サルコペニア・フレイル学会, オーラルフレイルに関する3学会合同
ステートメント, 老年歯科医学, 2023, 38 巻, supplement 号, p.86-96.
そのため、オーラルフレイルの段階で自分ごととして捉え、早めに対策を行うことが大切です。まずはオーラルフレイルのチェック項目(OF-5)を用いて、自分の口の状態を確認してみましょう(表1)。
| 質問 | 該当 | 非該当 |
| 自分の歯は何本ありますか | 0~19本 | 20本以上 |
| 半年前と比べて固いものが食べにくくなりましたか | はい | いいえ |
| お茶や汁物等でむせることがありますか | はい | いいえ |
| 口の渇きが気になりますか | はい | いいえ |
| 普段の会話で言葉をはっきりと発音できないことがありますか | はい | いいえ |
2つ以上該当した場合に「オーラルフレイル」 | ||
オーラルフレイルは、適切な対策を行うことで、改善も可能な状態であるとされています。健口を維持するためには、かかりつけ歯科を定期的に受診し、“毎日の歯磨き”と“口の機能向上トレーニング”の両方に取組むことが重要です。口の機能向上トレーニングには様々な方法がありますが、ここではその一例をご紹介します(図2)。日常生活の中で、口をよく動かすことを意識し、健口から健康を目指しましょう。
図2 表情筋エクササイズ①~③をそれぞれ10秒ずつ行い、3回繰り返す
① 深く息を吸って、口角を上げて、目をしっかりと閉じる
② 目と口を大きく開く
③ 口をしっかりと閉じ、頬に空気を入れてふくらませ、空気を左右に動かす